君への轍
師匠に焚き付けられたせいだろうか。

いや……それは、きっかけの一つに過ぎない。

薫は、放ってしまった言葉の理由と意味を、後付けで考えた。

あけりの身体のことを考えれば、こんな風に不定期に逢いに来て、あちこち引っ張り回すよりは、同じ家に帰る家族になったほうがいい。


薫自身も……本当は、京都奈良間を往復する時間を筋トレなり、練習に打ち込みたいというのも本音だ。

所属は奈良の選手会のままにしておくとしても、練習バンクを京都にさせてもらうことも真面目に考えていた。


競輪選手は結婚が早いとは言え、薫はまだ27歳になってない。

結婚を焦る年齢ではない。


そして、あけりもまだ高校2年生だ。

「……先週は……うちに泊まることすら遠慮したのに……唐突に、どうしたの?」


まさか子供じゃあるまいし、キスしたから結婚、とか言わないよね?

薫の恋愛遍歴を確認したことはないが、女慣れしているのは間違いない。

何を今さら、そんな……中二病でもあるまいし……結婚とか……



「……まあ、立ち話もなんだし……どうぞ。」

薫は、あけりの手を引いて、助手席に導いてくれた。

……どさくさにまぎれてシートに納まったあけりの、手の甲と、続いて、ひたいに唇を押しつけるだけのキスもしたけれど。

「もう……。油断も隙もない……。学校の前ではやめてよね……。」

頬を染めての抗議でさえも、かわいかった。


「じゃあ、どこでならいい?……どこ行く?」


何となく薫がニヤニヤしてるように感じる……。

ホテルにでも連れ込みたいのだろうか……。

想像だけであけりは、頬どころか顔中真っ赤になってしまった。



薫はくすくす笑って、車を出した。




どこに行くのかと思ったら、カップルが夜景を楽しむ定番スポットの将軍塚で薫は車を駐めた。

もうしばらくすると、太陽が西山に沈む夕焼けを見ることができるだろう。



「……本当は、最低でも、あけりちゃんが高校を卒業するまで待ってから……って思ってたんだけど……あと1年待つ意味もないかな、って。……少しでも近くに居たい。」
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