君への轍
聡の頬が片側だけ上がった。

「あけりさんも、前向きみたい。」


パッと、あけりの頬が赤く染まった。


……うわぁ。

見たくないもん、見てしまった気分。

聡は苦笑するしかなかった。

「……まあ、師匠、好青年だから……。パパさんの気に入ったんやろうね。」


あけりは恥ずかしそうに、こっくりとうなずいた。


……うれしそうな顔して……参ったな……。

あーあ。

僕の出る幕、もうなさそうだな。


ちぇっ。

虎視眈々とチャンスをうかがう予定だったのに……。

まあ……相手が泉勝利さんじゃぁ放置できないけど……師匠なら、納得せざるを得ない……かぁ。


聡は息をついて、それから笑顔を作った。

「じゃあさ、あけりさんがしょーりさんに逢いに行くのに、僕はもう同行しなくていいんかな?」

「え……。」

あけりは絶句して固まってしまった。


……それは……考えてなかった……。

確かに……もはや、薫に内緒というわけでもなくなったわけで……聡を巻き込む必要もない……のかな?

いや、でも……だからと言って、薫に頼むのもおかしい気がする。


いずれは、薫によって引き合わされることになるのかもしれない。

あいりが泉に謝るとしたら、それからでも充分だろう。

でも、あけりは……逆に、先に逢っておきたかった。

少し前までのような泉に対する恋心は、たぶん薫で上書きできてしまったけれども……それでも、自分の口で、ちゃんと報告したかった。


あけりは、ぐっと両手を握った。

「……あの……確かに、聡くんに、お願いするのは、筋が違うというか……迷惑だろうけど……、あの……、それでもやっぱり私は先に、……薫さんに引き合わされる前に、先に……しょーりさんに逢いたい。」

自分でもよくわからないけれど、そうしなければいけない……そんな強迫観念を抱いていた。


聡はあけりの様子をじっと観察した。

……未練……というわけでもなさそうだ。

どちらか言うと……責任感?……使命感?

うーん……。

あけりさん、真面目だからなあ。

思い詰めてしまってるのかな。


聡はあけりの握った手を取りたい気持ちになった。

でも、もはや、師匠に悪い……のかもしれない……。

……まあ……仕方ないか。

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