君への轍
万感の想いを飲み込んで、聡は敢えて笑顔をあけりに見せた。

「わかった。いつにする?予定通り、宮杯終わるまで行かへんの?……僕のほうは、いつでもいいよ。」


あけりはホッとして、脱力した。

「……ありがとう。……いつ……にしよう。……宮杯まで……やっぱり……大変かしら。」

「んー、心の余裕はないんちゃうかな?……ただでさえ、怖いヒトなんでしょ?しょーりさん。」

聡にそう言われて、あけりは思い出した。

「……うん……怖い……というか……容赦ない……。」

しょんぼりうつむいたあけりは、子供のように見えた。


……かわいいんだよな……こういうところ。

今さらだけど、やっぱり、僕……あけりさんのこと、好きだ……。

あけりさんには、幸せになってほしい。

誰よりも……。


「じゃあ、まあ、宮杯終わるまで、待とうか。……僕からも、それとなく、しょーりさんの動向を探っておくよ。」

あけりはホッとしたように表情を緩めて、こくこくとうなずいた。


損な役回り……。

……とは、思わないんだよなあ……不思議と。





スマホの小さな画面が、検車場を映し出した。

端正な顔を引き締めて、薫はストレッチらしき動きをしていた。

レース前の緊張がよく伝わってきた。

「師匠、いい顔してるねえ。」

聡のつぶやきに、あけりは頬を染めてうなずいた。



レースは、綺麗な三分戦だった。

薫の率いる近畿中部ライン、東北ライン、そして南関の若手に関東の2人が付いたライン。

「……薫さん……捲りかな。」

東北ラインの前は、徹底先行タイプの中堅選手。

南関の若手は、後ろが同地区ではないので、無理して早めに行く必要はない。

自分だけ届く捲りかもしれない。

「あっさり中段取って捲り、じゃない?」


聡の言う通りだった。


レースはおおかたの予想通りに進んだ。

東北ラインが赤板から前を走る。

最終周回ホームから中段の薫がラインを連れて前に進み、最終周回バックでラインごと東北ラインの前に出た。

画面の端っこで、南関の若手が動き出す。

カメラは薫たちとともに移動するので、一度は南関の若手は見切れてしまった。

しかしゴール前、南関の若手が大外から突っ込んで来た。

……いや、突き抜けた。
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