君への轍
「届いたな。」

聡のクールなつぶやきに、あけりは口を尖らせた。

「聡くん、どっちの味方?」

「……や。俺、車券買うてるから。これ、けっこうイイ配当だよ。……筋違い。師匠は3着かな。」

「もう!」

あけりは、頬を膨らませた。



聡の言う通り、先頭を駆けた薫は、すぐ後ろをマークしていた中部の選手に差されていた。

「まあ、3着やったら、明日の決勝戦に乗れるしね。めでたしめでたし。」

「……めでたくない。勝利者インタビューで、薫さん、観たかった……。」

拗ねた口調のあけりに、聡は脱力した。

「……なんか、今の……強烈に惚気(のろけ)られた気分……。」

「や!そうじゃなくて!あの!ほら!こないだは勝利者インタビューなかったから!」

「まあ、今回は記念(G3)だからね。」

あけりさんって……師匠の愛情表現を重いって言ってたけど……あけりさん自身も一途だから……けっこう重いかもしれない。


……いいなあ。

僕も、重たいぐらい一途な女の子と、これからご縁があるといいな。


自身の執着心の薄さを自覚している聡は、まだ見ぬ将来の恋人へ、過度な想いを馳せた。





翌日、2着で競走を終えた薫は、同県の先輩に急かされて大慌てで帰り支度をした。

携帯電話の電源を入れたのは、空港へ向かうタクシーの中。

2桁にのぼる着信履歴のほとんどに、番号が表示されていない。


外国から?

……誰だろ。

LAに居た頃の友人の誰かか?


かけ直すわけにもいかず……、とりあえずは、メールやラインに返信を始めた。



搭乗案内を待っていると、再び通知のない電話がかかってきた。

「……はい?」

『俺や。何で出ぇへんねん。』


不機嫌そうな声で電話に出たのは、師匠の泉勝利だった。


「師匠~。俺、さっきまで競走やったんですけど。」

薫がそう反論すると、泉は、ああ……と低い声を出した。


……冗談じゃなく、弟子の斡旋を気にしてない泉らしい反応に、薫は苦笑した。

「決勝2着でした。」

『ふん。そうけ。お疲れさんやな。』

……一応、ねぎらってくれてるらしい。


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