君への轍
そういうのが男らしい……というわけでもないけれど……仕方ないじゃない、好きだったんだもん。


あけりは、何となく開き直った。

「私、趣味が悪いから。イイヒトより、アクの強いヒトが好きだったのよね。」


すると嘉暎子は真顔で確認した。

「過去形なんですよね?……薫さんがイイヒトなことが不満なわけじゃないですよね?」


あけりは、ちょっと怯んで……少し考えて、うなずいた。


そうだ。

そうかもしれない。

もし、薫が泉のようなヒトだったら、あけりは好きにならなかっただろう。


泉の類似品なんかいらない。

泉の代替品が欲しいんじゃない。

泉が好きだった。

でも、泉みたいなヒトが好きだったわけではない。

あけりは、たった1人のヒトしか好きになったことがなかったので、どうやら履き違えていたようだ。


「好きなヒトが好きなタイプ、ってわけじゃないのね。」

しみじみそうつぶやいたあけりに、嘉暎子はうなずいた。

「逆も然りですよ。好きなタイプのヒトだから好きになるわけじゃないですし。」

「うん。そうね。……わかる。……どうして、そんな当たり前のこと、今まで、認識してなかったのかしら。……って、恋愛経験なかったから、か。」

あけりは思わず自分でそうツッコんだ。


嘉暎子はちょっと笑った。

その笑顔を見て、あけりも笑った。


……単純なことだ。

私は、何も知らない。

ヒトを好きになるという気持ちだけは、しょーりさんから教わった。

でも、お互いに好きな相手と、一から関係を築いていくのは、初めてのこと。

何となく、薫さんのご厚意に甘えて、流されて……


「自分を失っていたのは、私やったんやわ。」

あけりはそう言って、また笑った。


***********************


泉と薫が帰って来たのは、半月後。

復帰の目標としていた宮杯の直前だった。



「ほな、な。前検日、頼むわ。」

泉は簡単にそれだけ言って、空港で薫を解放しようとした。

薫を、早く恋人のもとに行かせてやろうという、らしくない配慮だった。

「え。ご自宅までお送りしますよ。俺、駐車場に車、置きっ放しなんで。……ピストもあるし。」

「……アホか。ちょっとでも早よ行ったれや。俺はバスで帰るわ。……ほな自転車だけ、頼むわ。後で届けてくれたら、ええし。」
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