君への轍
「ダメなの。……うちも、ちょうどテスト初日だけど……その……約束があって……。」
「ふぅん?……まあ、テスト終わってからのほうがいっか。どうせ、すぐに夏休みだもんな。……あ。そうだ。師匠が、結婚決まったら、彼女に会わせろ、って。」
あけりは、上目遣いで薫を見上げた。
「……結婚結婚って言い出したのも、しょーりさんの勧めなんだ……。」
「あ。あけりちゃん、ちょっとムッとしてる?……確かに、背中を押してもらったけど、俺が、一日も早く、あけりちゃんの家族になりたいんだよ。……俺がシンガポール飛んじゃったから、まだうちの両親にも会ってもらってないけどさ……真面目に結婚話、進めて行こう?」
薫には、何の迷いもためらいもないらしい。
おもむろに、ポケットから小さな箱を出して、あけりの手に置いた。
黒い、四角い箱。
中央にはHとWが縦に配置されたマーク。
「ハリー・ウィンストン?……え……シンガポールで買って来たの!?」
見るからに、指輪のケースのサイズだ。
まあ、これだけ結婚結婚と繰り返すのだから、既に準備していてもおかしくない。
けれど、これ見よがしに、そんな……。
「うん。それも、聡のお母さんに教えてもらった。ダイヤは1カラット以下じゃダメだって言われたよ。マダム、厳しいね。」
「……ハリー・ウィンストンで1カラット……。」
世界最高峰のジュエリーブランドでも、近年は安いラインナップも出ている。
ホワイトゴールドに0.5カラットのダイヤなら、普通のビジネスマンの給料3ヶ月分でも充分に買えるだろう。
しかし、プラチナに1カラット以上となると、桁が違う。
「結婚指輪も作ってきた。結納の時に、持ってくから。……とりあえず、これは……今……貸して。」
いつまでも箱を開けようとしないあけりに痺れを切らしたのか、薫はさっさと紙の外箱からケースを出し、パカッと上部を左右に開いた。
「……桃から生まれた桃太郎……みたい……。」
あけりは自分でも変なことを言っているという自覚がありつつも、口走っていた。
テンションが上がっているのか、下がっているのか……よくわからない。
「ふぅん?……まあ、テスト終わってからのほうがいっか。どうせ、すぐに夏休みだもんな。……あ。そうだ。師匠が、結婚決まったら、彼女に会わせろ、って。」
あけりは、上目遣いで薫を見上げた。
「……結婚結婚って言い出したのも、しょーりさんの勧めなんだ……。」
「あ。あけりちゃん、ちょっとムッとしてる?……確かに、背中を押してもらったけど、俺が、一日も早く、あけりちゃんの家族になりたいんだよ。……俺がシンガポール飛んじゃったから、まだうちの両親にも会ってもらってないけどさ……真面目に結婚話、進めて行こう?」
薫には、何の迷いもためらいもないらしい。
おもむろに、ポケットから小さな箱を出して、あけりの手に置いた。
黒い、四角い箱。
中央にはHとWが縦に配置されたマーク。
「ハリー・ウィンストン?……え……シンガポールで買って来たの!?」
見るからに、指輪のケースのサイズだ。
まあ、これだけ結婚結婚と繰り返すのだから、既に準備していてもおかしくない。
けれど、これ見よがしに、そんな……。
「うん。それも、聡のお母さんに教えてもらった。ダイヤは1カラット以下じゃダメだって言われたよ。マダム、厳しいね。」
「……ハリー・ウィンストンで1カラット……。」
世界最高峰のジュエリーブランドでも、近年は安いラインナップも出ている。
ホワイトゴールドに0.5カラットのダイヤなら、普通のビジネスマンの給料3ヶ月分でも充分に買えるだろう。
しかし、プラチナに1カラット以上となると、桁が違う。
「結婚指輪も作ってきた。結納の時に、持ってくから。……とりあえず、これは……今……貸して。」
いつまでも箱を開けようとしないあけりに痺れを切らしたのか、薫はさっさと紙の外箱からケースを出し、パカッと上部を左右に開いた。
「……桃から生まれた桃太郎……みたい……。」
あけりは自分でも変なことを言っているという自覚がありつつも、口走っていた。
テンションが上がっているのか、下がっているのか……よくわからない。