君への轍
そりゃ、うれしい。

でも……本当に、もらっちゃって、いいのだろうか……。



あけりの動揺を見て、薫は心の中で苦笑した。

ある程度、予想していた反応だった。



薫がつきあってきた女の子達とは、明らかに違う。

それはあけりの家庭環境のせいなのか……それとも、まだ高校生だからなのか……今はまだよくわからない。

少なくとも、聡のお母さんのような浪費家じゃあないと思うけど……。

薫はシンガポールで世話になった、弟子の母親が息を吐く様にワガママを言い、湯水のように無駄遣いを重ねる姿に衝撃を受けた。

あけりが、あんなふうに変貌するとはとても想像できない。

だが、それでもかまわない……とすら、薫は思い始めている。

自分には、競走で稼いだ賞金もあるし、実家もかなり裕福だ。

少なくとも、賞金を全て浪費されたところで、生きていくのには困らない。

……まあ、杞憂にすぎないことは、あけりちゃんと、あのご両親を見ていればわかるけど……こーゆーのは、極端過ぎることまで想定するものだしな。

と、薫は心の中で自嘲した。



「受け取ってくれる?」

薫の問いに、あけりは、しっかりとうなずいた。


おや?

あけりちゃん、ちょっと、変わった?

何となく、今までとは違う、意志の力を瞳に見て取れた。


……覚悟を決めてくれた、ということだろうか。

ニッ……と、薫は無意識に笑っていた。


薫の手が恭しく、あけりに差し出された。

おずおずと、あけりは自分の手を重ねた。

白い細い指が眩しい。

けど、その指をするりと通ったダイヤモンドの指輪は、さらに強烈に光を反射して、煌めいていた。

「……うん。似合うよ。これにして、よかった。」

しみじみと、薫がそう言った。


「ありがとう。一生、大切にする。」

あけりは力強くそう宣言した。


……気合い、入ってるなあ。

頼もしい気持ちで、薫は目の前の愛しいヒトを見つめた。

あけりもまた、多少のはにかみはあるものの、正面から薫を見つめていた。


2人だけの、婚約成立だった。

……世間一般とは順序がかなり違うけれど、まあ、いいか。

これから、夏休みだ。

いくらでもチャンスはあるだろう。


性欲の強さを自覚している薫は、己の理性の強さに、満足感すら覚え始めていた。
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