君への轍
聡は、苦笑した。

「愚問。師匠は頭で総流ししてたよ。100円ずつやけど。……まあ……師匠の後ろに付いた京都の2人が1着3着なんだし……悪くないんじゃない?」

「……薫さん自身は8着だったのにね……。」

あけりは、ついついため息をついた。


結局、あけりは2日間に3箇レースの車券を買って、1つも的中しなかった。

でも、聡は、いくつも的中させたらしく、喜色満面だった……。


「とりあえず、しょーりさんが1着で終わってよかったよ。」

「うん。よかった……。」

あけりはそう同調したけれど、これからのことを考えて緊張してきた。


手先が冷たい……。

あけりは、両手をこすって血流を良くしようとした。


聡は、その手を自分の手で包み込んで、温めてあげたい……と、本気で思ったけれども、我慢した。




京都駅から近鉄で奈良へ向かい、西大寺で降りた。

「駅に迎えに来てくださるらしいよ……あ……アレ?」


見れば、ロータリーに薫の黒いエルグランドが停まっていた。


「え……薫さん、いるの?」

思わず、あけりの足が止まった。


「……ん~~~?……いや、しょーりさんだけっぽいかな。」

聡はそう言ったけれど……あけりはそのまま立ちすくんでしまった……。


……まあ……無理もないか……。

ずっと恋い焦がれて止まなかったヒトに再会するんだもんな……。


「ちょっと待ってて。」

聡はあけりにそう言い置いて、小走りで泉の乗るエルグランドへと走った。




泉は聡を見つけて、窓を下ろした。

「しょーりさん!こんにちは!東口聡です!宮杯、お疲れ様でした!今日は、お疲れのところ、すみません!」


敢えて、初対面なのに「泉さん」と呼ばずに「しょーりさん」と呼んでみた。

以前あけりの言ってたように、泉は特に気を悪くする様子もなく、むしろ片頬を上げてうっすら笑った。

「……まあ、乗り。」

泉は、それだけ言って、ドアロックを解除した。

「はい!ありがとうございます!……あの……もう1人いるんですけど、いいですか?昨日と一昨日、一緒に、しょーりさんを応援してたんです。」

「……ふーん。彼女け?ええで。」

ニヤリと、泉が笑った。
< 170 / 210 >

この作品をシェア

pagetop