君への轍
「ありがとうございます!……僕の彼女、ではないです。僕は振られました。……彼女、ずっとしょーりさんのことが好きで……」

「へえ?……どうせリップサービスやろ。まあ、ええわ。飯、喰ってへんねんろ?飯、行こ。」

「わ!ありがとうございます。じゃあ、呼びますね。」

聡はそう言って、あけりのほうを向いてジャンプしながら、手を上げて振った。


あけりが聡のほうを見て、ビクッと反応した。


さすがに、今さら……ここまで来て、逃げ出すつもりはない。

でも……やっぱり……緊張する……。

ええい!

がんばれ!私!

気合いだ!


あけりは自分に活を入れて、ギクシャクと歩き出した。

聡が駆け寄ってきて、あけりの手を取った。

ともすれば腰の引けるあけりを、グイグイ引っ張る聡は……あけりにとって、すごく頼もしかった。




泉は、制服の高校生カップルのぎこちない様子に、肩をすくめて鼻をならして、目をそらした。


……青春ってやつ?……青臭くて、見てられんわ……。

あれ?

そういや、薫の彼女も女子高生ゆーてたな。

あいつ、ええ歳こいて、ガキに振り回されて、ままごとしてるんやろうなぁ。

よぉ、やるわ。

めっちゃ、めんどくさいやん。

ほっといて拗ねられてもつきあいきれんし、かと言って、毎日放課後デートにつきあうほど暇ちゃうし……。

いや。

薫のことやし、マメに通ってるんやろうなあ。

アホやな……あいつ……。

そんなことしてるから、せっかく宮杯の決勝に乗ってるのに、後ろを引っ張っただけで終わるねん。

……ええかげん、何が何でも勝つっちゅう気構えがないとな。

やっぱりさっさと結婚なり同棲なりしたほうがいいんかな。

女にケツ叩かれたら、その気になるやろ。



そんなことを考えていると、後ろのドアが開いた。

「連れてきました!失礼しまーす。」

聡が運転席の泉にそう声をかけて、すぐ後ろの席に座った。

あけりは、3列目……一番後ろの座席に納まって……挨拶した。

「お邪魔します。」

「どうぞ。……俺の車ちゃうけどな。」

皮肉っぽくそう言って、泉は車を出した。


……もちろん、2人とも、知っている。

聡にとっては師匠の、あけりにとっては恋人の、薫の車だ。
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