君への轍
あけりは、息をついた。

「わかりません。100%死に至るという病気ではありません。……でも、若くして亡くなったかたもいらっしゃいます。進行スピードに個人差がありますので、何とも言えません。」


泉は顔をしかめて、吐き捨てるように言った。

「他人のことはどうでもええねん。自分はどうなんやて聞いてんねん。……しんどいんけ?」



ああ……このヒト……心配してるのか……これで……。

聡は、やっと目の前の宇宙人のような男の気持ちを垣間見た気がした。

わかりにくいヒトだなあ……ほんと。

あけりさん、すごいヒトを最初に好きになってしまったんだなあ……って、改めて、哀れになってくるよ。

そりゃ、師匠のまっすぐさには癒やされるよな。

……まあ、身体のためにも、変に精神的にもしんどくなってしまいそうなしょーりさんのことは、吹っ切れてしまったほうがいい。


聡は、しみじみとあけりの幸せを願っていた。



そのあけりは……泉の気持ちに泣きそうになっていた。

瞳をうるうるさせて、あけりは、ふるふると首を横に振ってから……首を傾げた。


「どっちやねん!」

泉が一喝した。


聡は肩をすくめて一瞬目をつぶり、あけりは逆に目をカッと開いた。

「しんどくはないです!しんどいことはしないようにしてますから!……でも、それでも、大きな声を出しただけで肺が出血したりするので、病気は確実に進んでいるんだと思います。」


あけりの説明を聞いて、泉は顔を歪めた。


……思っていた以上に……泉は、2年間だけ一緒に暮らした継子のあけりの病気に……ショックを受けていた。

二度と会うことはないと思っていたし、会うつもりなんか微塵もなかった。

もはや他人だし、自分には全く関わりのない人間のはずだった。

あけりが、のたれ死にしようが、不幸のどん底にいようが……泉には関係のないはずだった……のに……。



泉は、声を詰まらせて……やっと、言った。

「……そうか。……わかった。1日も早よ結婚せぇ。」

「へ!?」
「は!?」


聡とあけりは、2人とも我が耳を疑って、変な声を出してしまった。

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