君への轍
反対されると思っていた。

よくても、自分には関係ないから勝手にしろ……と、つきはなされると思っていた。

不愉快にさせてしまっても、怒鳴られても、当たり前のこと。

一言も、何も話せないまま、追い返されてしまう可能性すら考えていた。


なのに……今、何て言った?

しょーりさん……いったい……どうしちゃったの?



唖然としてる2人を睨み付けているかのように真剣に泉は言った。

「薫は、ヒトが良すぎるぼんぼんやからな、ほっといたら、いつまでたっても周囲にぐずぐず気ぃつかって、何も進まんわ。その間に自分が死んだら、元も子もないやんけ。」

「……そんな……身も蓋もない言い方……」

聡のぼやきを、ヒト睨みして、泉は続けた。

「アホか。あけりの病気だけちゃうわ。薫かて、次の競走で落車して死ぬかもしれんし、明日の街道練習で車に轢かれて死ぬかもしれんねんで。いや、今、交通事故で死ぬかもしれん。」


……このヒト、何言ってんだ?

アホかと言われてしまったけれど、むしろ聡には、やはり泉の思考回路がよくわからなかった。


「それに、自分に会いに、京都まで往復してんの、無駄やん。家に自分が居ったら、薫、その分、練習できるわ。……いや……、自分、まだ高校生か。学校と主婦は、無理やな……。」

泉はそう言って、しばし考えてから、重々しく言った。

「よし。決めた。薫が京都に行けばええ。あいり、金持ちの男と再婚してんろ?家、そこそこでかいんやろ?……自分の家で二世帯住居しぃ。そしたら、楽できるやろ?薫は京都で練習したらええし。」


「……あの……薫さんと、薫さんのご両親が、何とおっしゃるか……。」

あけりにとって、これ以上、楽ちんな結婚はない。

でも、それは結婚ではなく、両親に夫婦で寄生するようなものだ。

そんなことが許されるわけがない。

あけりの両親はともかく……薫の両親が納得しないだろう。


でも泉は自信満々に言った。

「薫は、俺の弟子や。破門されたくなかったら、京都へ行け、って言う。親かて、別に婿養子にやるわけじゃなく、あけりが死ぬまでの期間限定ってゆーたら、反対できひんやろ。」

「死ぬまでって……。しょーりさん、飄々と酷いこと言うてはるのに……すごい……カッコイイ……。」

聡のつぶやきに、泉はフンと鼻を鳴らした。


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