君への轍
11月に入ると、医師の勧めで、日本ではまだ認可されていない新薬を個人輸入して服用し始めた。

もちろん保険は効かない。

重篤な副作用がネックとなっている扱いの難しい新薬は、金額もかなり高い。

薬代だけで1ヶ月9万円。

それに、「関税」「消費税」「通関手数料」 と「送料」がかかる。


あけりの家も薫の家も裕福だし、薫はけっこうな額を稼いでいる。

それでも、なかなかの金額であることは変わらない。

恵まれた環境に感謝して、あけりは新薬を飲んだ。


次から次へとあらわれる副作用は、これまでのどの薬よりも強烈だった。


一番つらかったのは、下痢だ。

下痢と言っても、ただの下痢ではない。

誇張でなく、自分でコントロールできない下痢に、何度も下着のみならず服まで汚した。

その都度あけりは、死にたくなるほど、情けなく、恥じらい……鬱気味になった。

休み時間毎にトイレに通い、かろうじて学校で粗相することはなかったが、心身ともに疲労困憊した。


下痢がおさまってきた冬休み、今度は酷い口内炎に悩まされた。

たかが口内炎……。

以前にも副作用で口内炎が同時にいくつもできて、大変だったことがあったが、今回はその比じゃない。

あまりの激痛に、口を動かすのもつらい。 

食べるのはもちろん、飲み物を口に入れることもできず……口内炎が治るまで、新薬の服用を止めて、栄養剤を点滴した。


折しも、クリスマスやお正月。

せっかくのご馳走を何一つ食べることもできず、あけりはますますふさぎ込んだ。




春先には、身体中にニキビの親玉ような大きな吹き出物が出た。

もともと白いつるんとした肌だったあけりの顔が、赤いぶつぶつでおおわれる。

薬を塗って、膿まないようにするのがやっとだ。


でも、顔はまだいい。

頭皮に出た吹き出物は腫れと痛みを伴い、寝返りするたびに、痛みで目が覚めた。

シャンプーもブラッシングも痛むため、低刺激のシャンプー、石鹸シャンプー、純石鹸……と、頭皮に優しいモノを探し続ける。


苦労は絶えなかったが、薬の効果は確かにあった。

あけりの呼吸は、自分でも驚くほど楽になっていた。
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