君への轍
「……レース……生で観てみたいな。……18歳になったら、独りで競輪場行っていいのよね……。」

あけりがボソッとそんなことを言い出した。

薫はちょっと笑った。

「……別に今でも制服じゃなきゃ咎められんと思うけど。……でも、せめて誰かと一緒に来てほしいかな。……心配やから。」

「誰にも……言えないもん。」

両親にはとても言えない。

特に母は、反対するだろう。


しょんぼりするあけりがかわいくて、薫は微笑んだ。

「聡は家族で来てるわ。……東口家に、あけりちゃんもまぜてもろたら?それなら俺も安心やし。」

あけりは首を傾げた。

「……変に思われへん?こうして、薫さんと逢ってること、内緒のはずだけど。……まさか、言ってへんよねえ?」

パタパタと手を振って薫は慌てて否定した。

「ゆーてへんゆーてへん。……てか、聡に、最初に釘さされたからなあ。」

「……そうなんですか?」

初耳だ。


薫は苦笑した。

「うん。……まあ、関係ないけど。誰に反対されても、俺、あけりちゃんのこと、好きやし。」


さらっと、「好き」って言った……。

あけりの記憶に間違いがなければ、たぶん初めての告白だ。


……何か……ドキドキしてきた……。

頬が熱い……。

どうしよう……。


告白なんか、数え切れないほどされてきた。

いい返事をしたこともない。

いつだって、告白する側にとっては一大事でも、あけりにとっては退屈な、無駄な時間でしかなかった。


なのに、今は、ちょっと事情が違う。


薫の「好き」に同じ重さの「好き」で応えることは、まだできない気がする。

でも、「友達から」とは言え、つきあっている認識はある。

なるべくなら、薫のことを好きになりたいと思っている。

……でも……でも……でも……。



真っ赤な顔で、瞳を潤ませて困っているあけりに、薫は欲情を覚えた。


やばい……。

めっちゃ、かわいい。

押し倒したい。

心の丈を、白い細い身体にぶつけたい。


めまいがするほどの激情を必死で押し殺して、助手席のドアを開けるために、車を降りた。

ぴょんぴょんとジャンプしつつ、車の後方を回り、ドアを開けた。


真っ赤な目であけりが薫を見上げた。


……キスしたい……。

薫は思わず右手で自分の目元を押さえた。


これ以上は目の毒だ。

マジで、帰したくなくなってしまう。
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