君への轍
気を取り直して、あけりに笑顔を向けた。

「じゃあ、ね。明後日、また来るわ。」

あけりは、こっくりとうなずいた。

そして、おずおずと手を差し伸べた。

薫は、その手をしっかりとホールドした。


白い、細い指……。

ほんと、綺麗だな……。


「……ありがと。」

薫の言葉に、あけりは驚いた。


ちゃんと返事してないのに……。


困惑しているあけりに、薫はほほ笑んだ。

「初めて、あけりちゃんから、俺に手を差し出してくれた。……今日は、それで充分。」


……そうだっけ?

「だって、いつも、……助けてくれるから……。」


留学経験があるせいか、単に女慣れしてるのか、薫はスマートに女性をエスコートすることに長けている。

下心とは関係なく、車の乗降や、階段を上がる時には自然と手を差し伸べる。

最初は驚いたが、わずか3週間で、あけりはそれに慣れてしまったらしい。


「うん。いつも助けたいし、支えてあげたいって思ってる。……ちゃんと伝わってるみたいで、うれしいわ。」

薫はそう言って、あけりの白い手を、ぎゅっと握った。


あけりは恥ずかしそうにうつむいた。

……わかってる。

薫の「好き」は相手を征服するようなものではなく、「守る」ことなのだろう。

押しつけがましくない、あけりを傷つけないように細心の注意をはらってくれる愛情を注がれて……心を開かないわけがない。


「ずるい……。完全に、調教されてる……。」

あけりの文句に、薫はちょっと笑った。

「もっと、馴れて。甘えて。……ワガママも、遠慮なく言うてくれていいから。」


本当に、ずるい。

居心地よすぎて、抵抗するのも馬鹿馬鹿しくなる。

一度、抱かれてしまったら……身体だけじゃなく、心も根こそぎ持って行かれてしまいそう。


「……じゃあ、明日も来て。」

あけりの口から出た言葉に、薫も、あけり本人も驚いた。


……やだ……私……何、言ってるんだろう。

困らせたいのだろうか。

振り回したいのだろうか。

それとも……逢いたいのだろうか。

自分でもよくわからない。


責任の取れない言葉を吐いてしまったことに動揺していると、薫は目を細めた。


何とも言えない、優しい表情で、あけりの白い手の甲にそっと口付けた。
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