君への轍
「お客さまにチケ出しとかご挨拶したいから。……母が身体弱くてね……私は代役。」

「……え?」

意味がわからず、あけりは不思議そうに部長を観る。

部長は、ちょっと笑った。

「やだ。聞いてなかったの?……顧問の徳丸は、私の父なの。」

「え!」

……私、さっきから「え」しか言ってない……。

「あの……じゃあ、1年生の部員も、徳丸……先生と先輩のご家族かご親戚ですか?」

さすがにそれだと居づらいかも……と、あけりは恐る恐る尋ねた。

すると、部長はぷぷっと笑った。

「まさか。……1年生は藤田さん。横浜から引っ越して来はってんけど、京都にやたら憧れてはるみたい。うちだけじゃなくて、茶道部も掛け持ちよ。」

「はあ……。パワフルですね。」

部活の掛け持ちって……前向きというか、貪欲というか……すごいな。

「まあ、ゆる~い部だから、マイペースで参加してくれたらいいからね。じゃ!」

それだけ言って、部長はパタパタと教室を飛び出して行った。





「彼氏も誘っていいんだって。お能。」

その日、本当に薫は忙しかったらしい。

それでもあけりとの約束を守って、京都にやっと到着したのは19時過ぎ。

あけりは、こっそりと家を抜け出してて、薫の車に滑り込んだ。

薫は運転中なのに、パッとあけりを見た。

「俺!?」


改めて、しかも、嬉々としてそう聞かれて……あけりは、気づいた。

自分が、薫のことを「彼氏」と認識していることに。

「……う……やっぱり洗脳されてる……。」


薫は信号で止まる度に、恥ずかしそうにうつむくあけりの髪にそっと触れた。


……ちょっと……失敗だったかしら。

こんな風に、夜、出てきちゃって……どうしよう……私……無事帰れるのかしら……。




薫が車を駐めたのは、夜の宝ヶ池公園のそば。

真っ暗だけど、たまにジョギングしてるヒトがいる。

路肩に駐車している車の中にも、ヒトがいるようだ。

……車内でイチャイチャしてはる……。

見ないように心がけても、ついつい目が泳ぐ。


「ドリンク、買ってくるけど、……何がいい?」

「え!あ!一緒に行きます!」

あけりは慌ててシートベルトを外した。
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