君への轍
「あんまり遅くなると、ご両親に気づかれたら心配しはるし……帰ろっか。」

あけりは口を閉じたまま、こっくりとうなずいた。

……本当は、もうちょっと一緒に居たい気がした。

けど、明日も学校だ。

薫も、早朝から練習だろう。

「明日、何時から練習するの?」

そう尋ねながら……あけりは、目の前にぶらぶらしていた薫の腕をそっと持った。



……これは……腕を組んでるのか……。

ホントに、馴れてきたなあ……。

師匠の用事を片付けて、はるばる京都まで駆け付けて来て、よかった。

苦労が報われるわ……。



薫は、黒い欲望を隠し通して……あけりと別れてから、帰りに適当な風俗店でスッキリさせて、何とか凌いできた。

そりゃ、どんな子が相手をしてくれても、あけりちゃんとは比較にならないけど。

……けど、そうでもしなきゃ、いつか無理矢理、ヤッてしまいそうで……自分の中のケダモノを懐柔できる自信がない。

なまじ、身体も性欲も強いだけにつらいけど……今、あけりちゃんを怖がらせたくはないし……ひたすら我慢だな。


「4時。」

「……ふわあああ。睡眠時間足りる?これから帰って……大変!」

あけりは独りでジタバタと騒ぎ立てて、それから、しゅんとした。

「……ごめんなさい。私がワガママ言うたから……無理させてしもて。……薫さんの身体が心配やから、これからは、こんなワガママ聞かんでいいから。」


……ダメだ……。

かわいすぎて、もう……限界……。

薫は、くるっと身体を半回転すると、そのまま腕の中にあけりを抱きすくめた。


「ワガママうれしいって言うたやん。」

頭の上から薫の切なそうな声が降り注ぐ。

……言葉だけじゃない。

背中に回された手にも、腕にも……切なさと愛しさがみなぎっている。



ドキドキしてる……。

私だけじゃない。

薫さんの心臓も……ドキドキしてる……。
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