君への轍
彼女を、幸せにしたい……。

ヤリたいとか、そんな次元じゃなくって、もっと長期的に考えると……薫の仕事には音信不通の数日間を避けられないということに馴れてもらったほうがいい。

……歴代の彼女の中には、薫の留守中に他の男と浮気したり、計画的に二股をかけたりした女もいた。

薫にも、セフレもいたからお互い様かもしれないが……それも、もう終わりだ。

あけりちゃんを傷つけたくない。


既に、関係してきた女とは手を切った。

風俗通いも、……いずれは辞められるだろう。


身の回りの整理をして、1人の女性と真剣に向き合いたい。

将来を夢見て、見据えて、準備を始めたい。

……薫は、10も歳下のあけりと出逢って以来、そんな想いに突き動かされている。


本気で惚れてるのかな……。

自分で自分がわからないのは、あけりだけじゃない。

薫もまた、今までとは違う自分の心境に戸惑っている。

だから……無責任なことは言えない。



「おやすみ。また明日。……好きだよ。」

別れ際の短い言葉に、万感の想いを込める。


あけりは、はにかんだ笑顔でうなずく。

「ありがとう。おやすみなさい。……また、明日。……。」


何か言いたそうだけど、言葉にできないらしい。


……かわいいなあ。

あけりの中で、薫への想いが日に日に結実していく……。

成長の過程をずっと見ていたい。

明日のあけりに逢えることを楽しみに、薫は京都を後にした。





「……濱口先輩いますかー?」

翌日の昼休み、教室に見知らぬ1年生がやって来た。

……あけりとはまたタイプの違う綺麗な子だ。

一緒にお弁当を食べていた子達に背中を押され、あけりは立ち上がった。



あけりが名乗る前に、1年生はあけりを見て、ニッと笑顔を作って、うなずいた。

……知らない子なのに、何だか人懐っこいというか……いたずらっ子のような笑顔に、あけりも釣られてほほ笑んだ。

あけりが口を開く前に、1年生が言った。

「やっぱり!正解!濱口先輩だったんだ!……夕べ、見かけて、そうじゃないかなーって思ったんですよ!宝ヶ池で!」

ギクリとした。

「え……見ちゃったの?……宝ヶ池って……あらら……。」
< 32 / 210 >

この作品をシェア

pagetop