君への轍
「それでですね!彼が、夕べ濱口先輩の彼が運転してらした車が蛙っぽかったって言うんですけど……私は車までは見えなくって……。何て車に乗ってらっしゃるんですか?」

嘉暎子は彼氏のために、わざわざ薫の車の車種を尋ねに来たらしい。

かわいいな……と、あけりは好意的に、一風変わった明るい後輩を眺めた。

でも、質問に答えることはできなかった。

あけりは、車種など気にしたことがなかった。

単に、黒くて、車高の低い、派手な、小型のスポーツカー……という認識だ。


「ごめん。私、わからへんわ。……聞いてみるね。……あ……放課後、たぶんその車で来はると思うけど……」

「え!見せてくださいっ!」

嘉暎子は前のめりに食いついてきた。

「……嘉暎子さん……車、好きなの?」

「……や……車というか……蛙に似てるって言うから……。」

どうやら嘉暎子の蛙愛は揺るぎないらしい。

「蛙に似てるんかなあ?車高低いし、2人しか乗れへんし……けっこう不便な車よ?」

継父のベンツのほうがずっと乗り心地がいい。

車に興味のないあけりには、薫のロードスターのかっこよさがよくわからない。


ましてや蛙に似てる?

……それって、かっこいいより……ダサい……気がする……。


「そっか、2人乗りなんですね。じゃあハッチ……うちの彼氏も車で来るように言います。終礼終わったらすぐ?いっつもどこで待ってらっしゃいますか?」

ハッチ?

彼氏のニックネーム?

……てか、嘉暎子さんだけじゃなくて、わざわざ彼氏さんも来るんだ……。


いいのかな。

一応、私たち、つきあってるの、内緒のはずなのに……。

あ!


「嘉暎子さんの彼って、大学院生なのよね?けっこうな年の差?あるよね?」

思わず、あけりはそう尋ねた。


「学年で7つ離れてますけど?……先輩の彼は……学生じゃないんですか?」

「学生ではないわね。……7つかあ……年の差、ギャップない?」


嘉暎子は首を傾げた。

「今時7つぐらい珍しくないんじゃないですか?……実際につきあってみて、男のほうが子供だとよくわかりましたよ。」

けろりとそう言った嘉暎子を、あけりは驚きの目で見た。

……確かに一般論でそんな風に言われるけど……実体験でもそうなの?
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