君への轍
正門を出ると、下校する生徒たちとは反対方向へと進む。

坂道を上がって行くと、路駐していた黒っぽい軽自動車から、若いひょろっとした男の子が降りてきた。

隣を歩いていた嘉暎子の足取りが弾んだ。

なんだか、お似合いな雰囲気だ。

元気で前向きな美人の嘉暎子と、いかにも優秀だけど観るからに変わってそうなカエル研究者の、どこがどう似合っているのか冷静に考えるとよくわからないが、あけりは第一印象でそう感じた。

「どうも。志智(しっち)です。……なんか、すみません。俺まで。」

「ん?緊張してる?てか!ハッチ!鼻の下のびてる!もう!そりゃ濱口先輩は美人だけど、私の前でデレデレするとか、最低!」

「え!それは違う!誤解!普通に、挨拶してるだけやん!」

「普通に、デレデレしてるっつーの!」

やいやいと、言い合ってる様子は、対等だ。

年の差を感じさせない2人の打々発止に、あけり呆気にとられて見とれた。


……とりあえず……苗字がしっちさん、なのね。

ハッチさんは、ニックネームなのだろう。



そんなことを思いながら突っ立っていると、チカッとライトが光った。

さらに奥の、有料駐車スペースから、ゆっくりと黒い車が出てきた。

薫のロードスターだ。

「……ほら!やっぱりカエルや!」

「うわ……ほんと。かっこいい。……ハッチのルーシーよりカエルだわ。」

志智と嘉暎子の目がキラキラと輝いた。


ルーシーが何かわからないけれど、改めてあけりは薫の車を正面から眺めた。

自分が既に到着していることに気づかれ注視されると、すぐに薫はヘッドライトを消した。

車体から上部に飛び出していた丸いライトが収納される。

「あ……。」

「目玉が……。」

2人が明らかにガッカリしているのを見て、あけりはやっと納得した。

確かに、リトラクタブル・ヘッドライトは、カエルの目玉に見えなくもない。

カエルねえ……。

おもしろいものを愛でるヒトたちもいるのねえ。



「こんにちは、薫さん。……嘉暎子さん、志智さん、こちら、水島薫さんです。」

あけりは、淡々と挨拶と紹介を済ませた。
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