君への轍
「え……欲しいの?いや、まあ、中古店とかならけっこう安いけど……。造りは古いから不便やで?何と言っても2シーターやし。デートかドライブしか使えへんで?普段は俺、乗らへんもん。」

薫の言葉に、あけりは驚いた。

「……逆に、私、この車しか見たことない……。」

すると薫はちょっと笑った。

「まあ、あけりちゃんと出逢ってからは、この車、あけりちゃん専用車やから。……でも、あけりちゃん、あんまり気に入ってへんみたいやし……買い換えようかと思ってる。」

「え?」

買い換える?

車を?

……そんな……服だけじゃなく、車まで私の好みとか考えなくても……。

薫さん、意外と……重い?



「あ、はい!本気で車を買い換えるなら、この車、買わせてください!下取り価格の倍、出します!」

突然、嘉暎子が手を挙げてそう訴えた。


「かえ!?マジ?」

「マジマジ。……だって2シーターでしょ?今しか乗れないもん。」

それって……赤ちゃんが生まれたら3人になるから?

この2人は現実的に結婚とか考えているということだろうか。

まだ高校一年生なのに?


ただただ驚いているあけりの前で、志智と嘉暎子は車検や税金のことまで真剣に相談していた。


薫はおもしろがつて眺めていたが、しばらくして、おもむろに言った。

「……こいつ、けっこうな金食い虫だけど、それでもよければ、あげるよ。車検通してから。」


「え……でも、そんな、」

「わあ!ありがとうございます!!!」

志智の戸惑いを押しのけて、嘉暎子がお礼を叫んだ。


「……いいの?」

ことの成り行きに付いていけず、あけりは薫を見上げて尋ねた。

「うん。いい加減、潮時だろうし。免許取ってすぐ買ったのがコレだから愛着はあったけど……かえこちゃん、可愛がってくれそうだし。」

薫はそう言って、愛車の周りをぐるぐる回ってはしゃいでいる2人に目を細めた。


……そっか。

イイヒトだ……って、とっくにわかってるつもりだった。

でも、薫さん、私にだけ優しいんじゃなくて、本当に、誰に対しても優しいヒトだってこと、改めてわかった。

忘れ得ぬあのヒトとは正反対……。

余計なことまで考えてしまい、あけりはちょっと悲しくなってしまった。


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