君への轍
夕食は、志智の希望で焼肉を食べに行くことになった。

「じゃあ、美味い肉食わせてもらえるとこ行こうか。」

車2台で連なって、東へと走る。

「……ほん……まに、カエルが好きなんや……。」

運転しながら半笑いで薫がつぶやいた。

「うん?」

「……ほら、後ろ見てみ。フロントマスク。」

薫が後ろを指さした。


あけりは振り返って、すぐ後ろを走る志智の車を見た。

……あ……。

丸いライトが、確かにカエルっぽい!

「……ほんまや。……カエル度は、薫さんのこの車のほうが高いね。何て車?」


薫はちょっと苦笑した。

「あれは、アルトラパンのルーシー。これは、ロードスター。ユーノス時代の。……次は、あけりちゃん家みたいにベンツにしよっか?」


あけりは、自転車にはやたら興味があるが、車にはほとんど興味がないらしい。

特に国産車は見分ける気もないらしいことがわかってきた。

毎朝、継父がベンツで学校へ送ってるというなら、俺も右に倣うべきだろう。

「……あの……何でもいいです。……てゆーか、薫さんのお好きな車にしてください。私は……よくわからないです。」

……ほらね。

薫はうっすら笑った。


「じゃあさ、一緒にディーラー巡りして、ピンとくる車を探そう。」

……実際に目の当たりにした反応を見れば、傾向が少しはわかるだろう。


あけりは気乗りしなさそうに、渋々うなずいた。

……これが自転車だったら、もっと楽しんでくれるのだろうか。

いや。

乗りたくても乗れないあけりを専門店に引っぱって行くのは、酷か……。

あ!

「なあ!彼……志智くん。彼に同行してもらったら?競輪場。」

薫の提案に、あけりの目が輝いた。

「……来月……大垣、走りますよね?大垣ならJRで行けそう……。」

「まあ、そこは、ほら、ルーシーに乗せてもらえばいいじゃん。……志智くん、丁寧な運転だし、安心してあけりちゃんを任せられそうや。」

薫の言葉に、あけりの期待がさらに募った。

「確か、最終日が日曜日……。優勝して!」

冗談ではなく、本気であけりはそう言っていた。


一瞬ひるんだ薫は、しばしの逡巡のあと、息をついた。

「せやな。あけりちゃんが応援に来てくれるんやもんな。……うん。がんばるわ。マジで。……まあ、グレード低いし、師匠は斡旋停止期間やし……チャンスはチャンスやわな。」

あけりの興奮が、心音が、伝わってくる。

……ベンツより、やっぱり自転車、なんや。

しゃーない。
がんばるか。
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