君への轍
注文を済ませた聡が、長椅子に座って待っていた。

その胸に、ボディバッグのように荷物が縛り付けてあった。


……もしかして……風呂敷?

風呂敷に本を包んで袈裟懸けにして運んでるの?

なんか……めっちゃ派手な忍者みたい……。

やっぱり変わってるわ、聡くん……。



しばらくするとお弁当ができたらしい。

支払いは、聡がした。

あかりは、お弁当代は固辞されたので、自販機でお茶を買った。


……お弁当といっても、スーパーやコンビニ価格ではなく、たぶんこのお店の中でいただくのと同じぐらいの値段のようだ。

高いけれど、期待がふくらんだ。



河原のベンチに並んで腰掛けた。

「はい、豚生姜焼き……と、サラダ。」

普通のお弁当のプラスチック容器と……ビニール袋に刻んだレタスやキャベツが入っているのだろうか?

「サラダ?」

驚くあけりに、聡はほほえんだ。

「うん。サラダ。弁当の蓋にあけてもいいけど、実は袋のままのほうが食べやすいよ。ドレッシングも馴染むし。……それに、……なんか、楽しくない?」


……楽しい……うん……確かに、楽しい。

袋ごとサラダを食べるなんてお行儀が悪い気がする。

でも、それが楽しい。

それに、おいしい!

お米も、豚肉も、お漬け物も、普通においしい!

作りたてだからもあるだろうが、やはり材料もいいのだろう。


「うん。美味しい。……知らなかったわ。こんなに美味しいお弁当だったら、また食べたいわ。」

あけりの素直な感想に、聡はうれしそうに笑った。

「よかった。……でも、トンビには気をつけて。あいつら、ピンポイントで肉とか狙っていくから。……あ、ほら!鴨!」


かも!

いつの間に来たのだろうか……三羽の鴨が水面をスイーッと移動していた。

優雅に滑るように見えるけれど、水面下で脚をバタバタさせてるのかしら。

「……かわいい……。」

すっかり見とれているあけりに、聡はこっそり見ていた。

穏やかな笑顔……。

……かわいいな……。

「あ!ほら、白い鳥、来た!白鷺!綺麗!」

あけりが少し上流を指さした。

すらりと長い脚に白い羽根の美しい白鷺がちょこちょこと歩いていた。

「うん。綺麗。」

同意したふりして、聡はあけりの横顔と、黒い瞳を賛美した。


……もちろん、あけりにはバレバレだった。

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