君への轍
ずっと、あけりは聡に文句を言いたいと思って、機会をうかがっていた。

聡が薫にあけりの初恋の話をしたことを……実は、本気で怒り続けていた。

でも、それを聡に訴えることは、同時に、あけりが薫と逢っていると白状することになってしまう。

さすがに自分から暴露したくはない。


結局、あけりは文句を言えないまま……自転車で颯爽と走って行く聡を、毎週、車の中から恨めしく見ている。

牛蒡みたい……と、悪態をつきながら。



「雨の日でも自転車で走ってるけど……学校でシャワーでも浴びてるの?」

ずっと不思議だったことを、あけりは聞いてみた。

予想外のことを聞かれて、聡は面食らった。

「え……いや?タオル濡らして拭く程度。……夏場はプールの水かぶることもあるけど。」


……やっぱり、ワイルドだ。

「はあ……。聡くん、ほんと、意外。あんなに、坊ちゃん坊ちゃんしてたのにねえ。」

しみじみそう言ったあけりに、聡は首を傾げた。

「いや、でも小学生の頃と同じじゃ成長なさ過ぎやん。……そりゃ年相応にオトナの男になってくのは当たり前じゃない?」


オトナのオトコ……?

何か……生々しいんだけど……その表現。

よりによってピッチリしたレーサーパンツをはいてる状態で……何と言うか……意識しちゃうんだけど……。


恥ずかしそうに目を伏せたあけりの頬がピンク色に染まった。


初々しいあけりの反応が、妙に聡の心を浮き足だたせた。

「……てゆーか、あけりさんも。……守ってあげたい系女の子に変貌してるし。」

聡は自分で言った言葉に、ハッとした。


……守ってあげたい……。

確かに、そんな気になってしまってるかもしれない……。



「……はは……何か……気恥ずかしいわ……こういうの。」

あけりの乾いた笑いに、聡も同じように笑ってみせた。

「はっは……は……僕のほうが恥ずかしいって。昔、あけりさんに振られてるのに。」

「……覚えてない。」


聡の自虐ネタに、あけりはそっぽを向いた。


耳までほんのり赤くしているあけりが、ただただかわいくて……聡は、ちょっと調子に乗って言った。

「じゃあ、今なら?……今の僕なら……あけりさんの答えは、また違った?」
< 49 / 210 >

この作品をシェア

pagetop