君への轍
……まさか……聡くん……私のこと?

今さら?

えーと……。

それは、ちょっと……ややこしいことになってしまうかも……。

どうしよう。

薫さんとのこと、言ったほうがいいのかな。


「あの……」


あけりが口を開く前に、聡はニッと笑って言った。

「とっくに吹っ切れたし、他に憧れたヒトもいたけど……、こうして再会したら、また、あけりさんのこと好きになったかも。」


……今のって……告白?

どうしよう……。


返答に困っていると、聡が言葉を続けた。

「イイよ。何も言わなくて。……あけりさんが、今も以前と同じヒトを好きでも、他に別の好きなヒトがいても、いなくても、関係ないから。今は。」


今は?

どういう意味?

「どうして、今は、なの?……好きなヒト……関係ない?」

あけりがそう尋ねると、聡は肩をすくめた。

「僕もだけど、あけりさんも……なんてゆーか、気持ちがかたまってるように見えないから。」

「……う……。」

図星、かもしれない。

確かに、あけりは……薫とつき合っているが……まだ、ふわふわと気持ちがただよっている状態なのは間違いない。


「……歩きながら話そうか。」

聡はそう言って踵を返した。

慌てて、あけりがついてくるのを確認して、聡はホッとした。


少なくとも、嫌われてはいない。

今は、それで充分だ。


……つい「好き」かもしれないと言ってしまったけれど、別に焦ってもいないし、深刻でもない。

むしろ心に余裕がある。

まるでゲームのように、どうすればあけりの気持ちを自分に向けさせられるか……めまぐるしく頭脳が回転している。

やり過ぎて、また振られるのは怖いけど。



倒して駐めていたレーサーを押しながら、歩き出す。

あけりはすぐ横を歩いた。


「……うちの、継母(ままはは)、覚えてる?」

河原を歩きながら、おもむろに聡が切り出した。

「うん?……あ、うん。薫さんの幼なじみの……『にお』さん?『にほ』さん?」

あけりの言葉に、聡は気づいてしまった。


……薫さん、か……。
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