君への轍
あけりには、聡のイケズも嫌味も、ぐさぐさと突き刺さった。

……やっぱり、聡くん……私より頭いいんだろうな。

全てお見通しみたい。

敵わないわ……。


あけりの両肩から力が抜けた。

小さく息をついて、弱々しくあけりが言った。

「……あの翌日、薫さんが来られて……お友達からってことで、逢ってる。……正直、私、ずっと……しんどくって……いいかげん、初恋を上書き消去してくれるヒトがいたらいいなって思ってて……薫さんのご好意に甘えさせてもらってるんだと思う……。」

「……うん。」


聡は、悟った。

つまり、誰でもよかったというわけか。

師匠はうまくハマったようだ。

……そういうことなら、僕が立候補すればよかったかな。

いや……。

まだ、間に合うのか?

それなら……。


聡は、敢えて逆説的に言った。

「師匠、優しいから、恋愛のリハビリにはちょうどいいんじゃない?……どう?忘れられそう?初恋。」


あけりは、首を傾げた。

目の前の聡の心の中がわからない。

あけりに好意を持っているのに、他の男とのつきあいを容認できるものなの?

「……ひねくれてる……。」

聡も、あけり自身も……ひねくれてるんだわ。


あけりのつぶやきを、聡は過不足なく受け取った。

……でも、聡自身は、別にひねくれているとは思っていない。

あけりに、必要以上に警戒心を抱かせないために、そんな言い方をしただけだ。

師匠が、あけりにとって都合のイイ男になるのなら、自分は別の存在になるべきだろう。

まずは、あけりの気持ちを揺さぶってみよう。

聡は、自分に向けられた指摘は無視して、あけりに言った。

「……ひねくれちゃってるんだ。……それは心配やな。俺も……たぶん師匠も、あけりさんが初恋の悪夢から解放されるのを手伝いたいだけなんだけどね。」

あけりは、唇を噛んでうつむいた。


……聡くんって……こんなヒトじゃなかったのに……。

意地悪だわ。

イケズだわ。

絶対、腹に一物どころか、二物も三物も持ってて、小出しにしてるんだわ。

……何でも受け入れてくれる薫さんとは、違い過ぎる……。


でも……どうしてだろう……。

惹かれる……。

薫とはまた違う強さを感じる……。
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