君への轍
あけりは苦笑したまま首を横に振った。

「……子供はうるさいから嫌いなんだって。」

子供嫌い……か……。

それはフォローできないな。

聡はため息をついた。

「そんな、冷たいヒトなのに、好きなの?……それって……ない物ねだり?」

手に入らないから、執着するのだろうか。


あけりは、また泣きそうな顔をしていた。

「……違うもん。……確かに私には冷たかったけれど……熱いヒトだもの。」

「ふぅん?……じゃあ、自分のほうを見てほしかったんだ?お継母さんがうらやましかった?」

聡にそう聞かれて、あけりの表情が変わった。

うるうるしていた涙が引っ込んだ。

「……うらやむことなんか1つもないわ。あのヒトと母とは……合わなかったから。」

皮肉っぽい口調に、聡は首を傾げた。

「わからないな。……まあ、僕の両親も合ってなかったし、公的な場所以外で、夫婦らしいところなんか見たことないけどさ、……それでも、普通は実の母の肩を持つと思うんだけど。……あけりさんは、自分をかわいがってくれなかった、血の繋がらないお継父さんを恋しがってるんだ?」

「……あのヒトは悪くないもの。……ママが……あのヒトを裏切った……。」

あけりはつぶやくようにそう言った。

そして、自分の言葉に誘発されるように、言葉を継いだ。

「裏切ったのは、ママよ。……なのに、ママは私の為に、優しい今の継父を選んだとか言うの。……単に、職業的にも先行きが不安で、自分に興味を失ったあのヒトを切り捨てただけのくせに。」


……重い……。

いや、まあ、うちの事情も充分重いんだけどさ。

それでも、たぶん一番の被害者たる僕が、仕方ないと割り切ってるし、当人達も今は幸せそうだし……悲壮感がないんだろうけどさ。

あけりさんは、ずっと恨んでるのか……別の男に乗り換えた実の母を……。


何となくわかってきたぞ。

やっぱり単なる淡い初恋じゃなかったんだな……。

あけりさん自身も……後悔していることがあるのかもしれない……。


「……まあ、でもさ。よくわからないけれど、そんな状態ならさ……遅かれ早かれ、あけりさんの好きなお継父さんも、他の女性に目が向くことになったんじゃない?たまたま、お母さんのほうが早く、次の物件を見つけたんだと思うよ?……うちが、そうだったから、こんなこと言うんだけどね。」

一瞬あけりに睨まれたような気がして、聡は慌てて、自分の家のケースをつけ加えた。
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