君への轍
あけりは、首を傾げた。

「聡くん、それで平気なの?」

聡はあけりに何を聞かれたのか、よくわからなかった。

「僕?僕は、関係ないしなあ。……両親って言っても、父と母は別の人間だし……僕を理由に無理して夫婦でいられても全然幸せじゃないよ?むしろ、今は2人とも幸せそうで、僕もホッとしてる。」

「……幸せ……。」

あけりは、口の中で小さくつぶやいた。

「うん。幸せ。……あけりさんのお母さんと今のお継父さんは、幸せそうじゃない?……それから、別れたお継父さんは?今、どんな感じ?」

聡にそう聞かれて、あけりはちょっと考えてから、口を開いた。

「……幸せ……かな……。パパさん優しいから……私にも……ママにも……。ママ、泣かないし……怒らないし……。ママの下手くそな料理をパパさん、美味しいって言ってくれるの。……そんな時のママの笑顔は……幸せなのかもしれない……。」

「へえ!じゃあ、少なくとも、あけりさんのお母さんにとっては、最良の選択だったんじゃない?手段はどうあれ、今、幸せなら、よかったよ。……別れたお継父さんも、再婚されたんだっけ?」

あけりは誘導されるようにうなずいた。

「……モテるヒトだから……昔も、今も、女性には不自由しないみたい。」

「……。」


どんな男だろう。

子供嫌いで、あんなにかわいかったあけりさんに見向きもしなくて、冷たくて、でも熱くて、モテる?

激しいなあ……。


「実のお子さんが生まれたら、価値観とか変わらはるのかな……。」

一般論かな、と思いつつ、聡はつぶやいた。

でもあけりは首を横に振った。

「いる。……最初の結婚は、できちゃった婚だったんだって。……でも、子供の夜泣きで眠れなくて……別居して、離婚したって。」

「はあ!?自分の子なのに!?」

さすがに、ひどい!

それは、身勝手過ぎるだろう。

でも、そんな男じゃ……連れ子のことも煩わしいと思ってもしかたないのか……。

あけりは、力なくうなずいた。

「……身体が資本だから。だから、ママも私も、いっぱい気を使って……ママは神経をすり減らしちゃったのかな……。」

「あけりさんは……そのヒトの、どこが好きなの?」

わけがわからない。

聡の問いに、あけりの瞳が潤む。
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