君への轍
あ……また、泣いちゃうな……。

聡の胸も痛い気がしてきた。


あけりは、涙をこぼさないように、上を向いた。

そして、無理に明るい声で言った。

「わかんない。……教えてほしいぐらい。どこかいいんだか……。」


……重症だな……そりゃ……。

聡は、ため息をついた。

そして、あけりのハンカチをあけりの目元にそっと宛がった。


「……ん……大丈夫。……ありがと……。」

あけりはそう言ったけれど、聡にはとても大丈夫には思えなかった。


「……一度、逢って来たら?……心細いなら、ついてってあげるからさ。」

聡は、真面目にそう言っていた。


あけりの目が丸く大きくなった。


しばしの沈黙……。


目は口ほどに物を言う……とは言うけれど……ホントだな。

何も言わなくても、わかる気がする。

あけりさんの中で、もやもやしていた心が固まっていく……。


……そうか……。

決心できなかったのは、……怖かったんだな。

そりゃまあ……勇気が要る……か。

決してうまくいっていた訳ではない、前の継父に逢いに行く、なんて。

しかも、実母の裏切りで離婚に至ったのなら……どの面下げて、って言われてもおかしくない。


……よし。

聡は、あけりの決意が固まるのを待たずに、言った。

「元お継父さん、どこにお住まいなの?京都?遠く?……シンガポールから帰国したら、僕のほうはいつでもいいから。一緒に訪ねてみよう?」


あけりは、何も言えなかった。

聡の申し出は、突拍子もないことなのに……なのに、……あけりは、すがりつこうとしている。

いや。

きっかけは何でもよかったのかもしれない。

ずっと逢いたかった。

誰かに背中を押してもらいたかった。

それが吉と出るか凶と出るか……わからない。

わかっていることは、私は……あのヒトに逢えば、必ず深い傷を負うだろう。

聡くんなら……ちゃんと骨を拾ってくれる気がする……。

私が玉砕しても、死にたいほどにダメージを受けても……再生させてくれそうな……そんな気がする。

どうしてかしら……。

価値観の違いが……おもしろいというか……頼もしいのかな?

あけりは、さんざん迷ったあげくに、聡に伝えた。

「……助かる。……ありがとう。」
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