君への轍
憮然としてる聡に、慌ててあけりはつけ加えた。

「ほら、縁起がいいでしょ?勝負師だから、やたら験(げん)を担いではって。『勝利』(かつとし)って呼ばれるより、しょうりって呼ばれたほうが気合いが入るみたい。」

……まあ……験を担ぎたくなる気持ちはわかる。

確かに、一生懸命練習すればするほど……思うような結果が出ない時には、何かに縋りたくなるものだ。


「ふーん、じゃあ、俺も泉さんじゃなくて勝利さんって呼びかけてみようかな~。……怒られるかな。」

「……ツンデレだから何か言うかもしれないけど、心の中ではテンション上がってはると思う。」

あけりの頬が自然に緩んだ。

まるで花が咲いたようなほほ笑みだった。


……なんか……妬けるかも。

聡は、あけりとつきあっているという師匠の薫に対してよりも、泉勝利にライバル心を抱いていることに気づいた。




帰宅すると、聡の両親が温かく迎え出てくれた。

もちろん、2人はあけりと薫の関係はもとより、あけりと泉のことも知らせていない。

だがそこは年の功だろうか……。

……何となく……バレてるような気がする……。

「てゆーか、誤解してる気がする。……薫さんが気に入っていたあけりさんを、泉さんに持っていかれた……とか。」

苦笑しながら聡が解説した。

「それ、笑えない……。」

苦虫を噛み潰したような顔をしたあけりを見て、聡は口をつぐんだ。


比喩ではなく、今までに何度も起こり、もはやパターン化しているということを、あけりには言わないほうがいいだろう。


……泉さん……か。

実際、モテるんだよな……あのヒト。

あけりさん……やっかいな初恋を引きずっちゃってるなあ。

ホントに師匠で、上書き……できるのかな……。



そんなことを考えていると、家の電話が鳴った。

番号を見て、継母のにほが子機に飛びついた。

「もしもし?薫?泉さん、どんな感じ?」


自分の荷物だけでなく、師匠の泉の荷物も片付けると、薫は泉の搬送された病院へと駆け付けた。

祝日なので即手術というわけにはいかないらしく、泉は一通りの検査を終えて個室に入っていた。
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