君への轍
『……ん……肋骨2本ぽっきり。あと、やっぱり肺、やっちゃったみたい。……合宿とか旅行とか全部キャンセルだから、超不機嫌。』

にほが子機のスピーカーボタンを押したので、薫の声はあけりにも、聡にも聞こえた。

「……よかった……。」

小声でそうつぶやいて、へなへなとあけりはソファに沈み込んだ。

聡の父の東口統(ひがしぐちすばる)が不思議そうに、あけりを見た。

「ほんと、よかった!怒る元気があるんだ!」

慌てて聡はそう言って、あけりのフォローをした。


電話の向こうで、薫もあけりに気づいたらしい。

『元気元気。めっちゃ元気。……さっき、落車の原因になったヤツと、師匠に乗り上げたヤツが謝りに来たんだけどさ、手ぶらでよぉ来るわ!って悪態ついてたぐらい、元気。……そこ、ぐっちーさんだけじゃなくて、聡と、あけりちゃんもいるの?』

「うん。いるよ。心配してる。……師匠、今日はそっちに泊まり?明日の予定はキャンセル?」

『……う……。そうなるか……。あけりちゃん、ごめん……。』

薫は、すんなりキャンセルを認めて、謝った。



……てか……今ので、完全にバレてしまったんですけどね……聡くんのご両親に……。

あけりは、何の反応もできず、固まった。


案の定、にほが口を出した。

「ちょっとちょっと!高校生のお嬢さんに、手ぇ出してるの!?やめてよね!あけりちゃんのご両親に顔向けできひんくなるやんか!」

『……え……や……あの……』


電話の向こうで、しどろもどろになっている薫を想像すると、滑稽で笑えた。


「大丈夫。僕も一緒だから。ね?……まあ、師匠はまた今度ってことで、明日は2人で行こっか?」

聡は、しれっとそんなことを言った。


あけりは大まじめにうなずいて、口裏を合わせた。

「そうね。……薫さん、また、お時間できたら、埋め合わせしてくださいね。」

『……わかった。マジ、ごめんな。』

薫もまた、流れにうまく乗った。



こうして、聡とあけりはゴールデンウィーク最終日を2人で過ごすことになった。

デート♪デート♪と、子供のようにはやし立てる両親に怒ってみせながらも、……聡は心の中でガッツポーズをしていた。


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