君への轍
「……泉さん、ずっとあちらで治療されるんですか?」

気を取り直して、そう尋ねてみた。

「たぶん3週間かな。」

「……じゃあ、その間、薫さんも?」

薫は大慌てで首を横に振った。

「さすがにそれは無理!俺も練習したいし。……や、向こうのバンクも借りるけどさ。やっぱ不便やし……あけりちゃんと逢えないの、しんどいわ。」

「……。」

さらっと、薫はあけりにアピールした。

でもあけりは、素直に受け止められなかった。


……私のことより、しょーりさんを助けてあげてほしいんだけど……。



少しの間を置いて、あけりは言った。

「今は、師匠の泉さんのケアと、練習に身を入れてほしい。……大垣で優勝してくれるの、楽しみにしてるから。」

「……。」


今度は薫が即答できなかった。


……やっぱり、おかしい。

何かが、先週とは違う。

まるでボタンを1つかけ違えてしまったかのように……引き攣れてしまっている。





無情にも道はむしろいつもよりすいている。

そう時間がかからずに、あけりの自宅前まで来てしまった。


「……ありがとうございました。」

お礼の言葉まで他人行儀に感じて……薫は、思わず両手を伸ばした。

あけりの細い身体を胸の中にかき寄せて、力を込めた。

抵抗どころか身動きもしないあけりが……何だか人形のように思えてきて……薫はすぐに力を緩めて、手放した。

「ごめん。」

思わずうつむいてそう謝った。


でも、あけりには何故謝られたのか、よくわからなかった。

むしろ、ときめいたのに……拍子抜けかも。


薫は、苦笑した。

「大垣、優勝するから。……何が何でも勝つから。楽しみにしといて。……あ。それから、車の譲渡手続きしてもらってるから。……あけりちゃんと一緒に車を選びに行くの、当分お預けになりそうだから、しばらくこの車だけど。……ごめんな。」


あけりは、ぶるぶると首を横に振った。

車のことで、あけりに謝る必要なんてない。

てゆーか、あけりには、薫の車にいちゃもんをつける権利なんてない。

何だか、配慮されすぎると、自分がすごくワガママに思えてくるから……やめてほしい……。
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