君への轍
「はあ?あけりちゃんが浮気してるとでも言うの?アホちゃう!?」

聡の継母のにほは、薫の愚痴を一蹴した。

「……いや、浮気という表現は……。」



あけりを送ったあと、薫はお土産のおすそ分けを届けるために、聡の家に寄った。

幼なじみの浮かない表情を見て、にほは薫を招き入れて話を聞き出した。


「ああ。まだあけりちゃんに手を出してないのね。……よかったぁ。あの子、イイ子よ。泉さんのことも、本気で心配してたわ。」

にほはそう言ってから、ふと気づいたように言った。

「聡くんも、あけりちゃんのこと好きみたいなのよね~。……あけりちゃんに、その気、なさそうやけど。……もし、あけりちゃんが、薫と聡くんとで揺れて悩み始めたら、私、聡くんを応援するわよ。」

「……はいはい。お好きにどうぞ。」

薫はふてくされてそう言った。


……聡は小学生の時にあけりに告白して振られたと言っていた。

再会して、また惚れても仕方ないだろう。

てゆーか、ライバルが聡なら、仕方ない。

あけりが聡を選ぶなら、時間はかかっても祝福できるだろう。


でも、聡じゃない。

もし聡だというなら、2人が図書館で会ったことも、昨日一緒に能に行ったことも、薫に隠すだろう。


「……俺の留守中、聡にあけりちゃんをガードしてほしいくらいやわ。」

ボソッとそうつぶやいた薫を、にほは哀れみを込めて見つめた。

「ヒトが良すぎるのよ、薫は。……ガードの前に、まず、ちゃんと自分のモノにしてしまわんと……。」


薫の頬がちょっと赤らんだ。

「……何だよ、手を出すな、って言ったり、けしかけたり。意味わからんわ。どっちやねん。」

「言うた言うた。あれは建前。」

さらっとそう言って、にほは真面目な顔で言った。

「順番的には、聡くんよりも、薫に幸せになってほしいと思ってるし、あけりちゃんはイイ子やと思う。……でも、薫とあけりちゃんが、お互いにお互いを幸せにしてあげられるかどうかはわからへんから、生ぬるく見守ってる。あかんと思ったら、止める。」

「……ああ。頼むわ。」

苦笑して、薫はうなずいた。


気心しれた関係だ。

薫が今のにほの穏やかな幸せに安堵しているように、にほもまた、薫の幸せを願っている。


……どちらかが不幸になったとしても……昔のように、身体で慰め合うことは、もはやできないから……。
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