君への轍
あけりは、金曜と土曜を、ひたすら寝て過ごした。

朝も昼も夜も……昏々と眠り続けて、日曜の朝にパッチリと目が覚めた。


……うん。

大丈夫みたい。


スマホを開けると、いろんなヒトからメールと着信があったようだ。

その1つ1つに返信していて……薫からのラインにもレスしていなかったことに気づいた。


……しまった……。


あけりは、慌てて返信しようとして……はたと手を止めた。

大きな声を出しただけで喀血したなんて、よけいな心配をかけてしまうかもしれない。

薫さんのことだから、来週の決勝戦の応援も来ないで安静にしてるように言われてしまうかも……。

どうしよう……。


あけりは、しばし逡巡して……当たり障りないメッセージを入力した。


<おはようございます。泉さんの手術が無事に終わったとうかがってホッとしました。お返事が遅くなってしまって、ごめんなさい。体調が悪くてお返事できませんでした。来週は体調を整えておきますね。>


すぐに、既読マークがついた。


<今、電話していい?>


文字に急かされてる。

あけりは、自分から電話をかけた。


『はい!あけりちゃん!身体、どした?大丈夫!?』

薫の勢いに、あけりは圧倒された。

「……はい。たぶん、もう大丈夫です。……お返事できなくて、すみませんでした。」

『よかった……。』

しみじみと、薫がそうつぶやいた。


やっぱり心配かけてしまってた……。

一言でも、スタンプの1つでも、ちゃんと返信すればよかった。

でも、ご飯を食べるのも、トイレに行くのも億劫というか……ひたすら眠い2日間だったので、スマホの画面を見る気力もなかった……。


「ごめんなさい。」

もう一度、あけりは謝った。

『……いや、しんどい時はしょうがないし。』

そう言ってから、一息ついて、薫はポツリと言った。

『……返事ないから、入院したか……、俺が逢いに行くの迷惑なんかと心配したわ。……よかったぁ。』


あけりは、言葉に詰まってしまった。


……否定してあげたほうがいいんだろうけど……重い……。

いや、うれしいんだけど……重い……。

でも、変に沈黙してしまうのも……絶対、薫さん、また、変に勘ぐっちゃうわ。
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