君への轍
部長の顔がパッと輝いた。

「そう!それ!……何でもよく知ってるわねえ。君。氏子さん?」

「はい。……あの辺は、小さい頃から自転車でウロウロしてましたし。……幼稚園とか小学校からも何度も行ってたよね?」

聡に振られて、あけりもうなずいた。

「そうね。宝ヶ池と上賀茂・下鴨はよく行ったね。……上賀茂さん、今年も桜を見に行きましたよ。」



そんな話をしていると、また別のお客さんが来たようだ。

忙しそうな部長に目礼だけして、見所(けんじょ)と呼ばれる客席へと向かった。




「ゴルフ場の中で、神主さんの行列、見たことある……って、前に、継父(ちち)から聞いたことあるわ。お祓いでもしてはったのかと思ってたんだけど……神社の正式な神事だったのかな。」

あけりがそう尋ねると、聡はうなずいた。

「本当は、ずーっと神社の土地なんだよ。今も。戦後に進駐軍が勝手に接収してゴルフ場にしてしまっただけ。……だから、神事が最優先のはずだよ。」

「……ふぅん。神聖な土地を取り上げちゃう米軍の横暴に、負けてないというか……タフね。」


聡は、うなずいて、それから、ふと思い出したように話題を変えた。

「そうだね。……タフと言えば……しょーりさん!……すごいヒトだね。……隠れてコソコソ筋トレ始めてるらしいよ。まだ、肺、ふさがってないのに。」

「え……。」

絶句した。

さすがに、早すぎるだろう。


「ドレーン(管)もまだ取れてないのにね。本人曰く『呼吸が乱れへん程度やったらエエやろ』って。……息の切れない筋トレって……本当に可能?何度注意しても聞かないから、個室から大部屋に強制移動だって。」

聡は笑っていたが、あけりは泣きそうになった。


どこまで、前向きなんだろう。

すごい……。


肺にドレーンが刺さっている痛さは、思い出したくもないけど、よくよく覚えている。

痛くて、熱くて……身動きするたびに、新たな痛みが走って、とても動けなかった。

なのに……筋トレ?

……痛くないはずがない……。

しょーりさん……。


「復帰を……急いではるのかな……。」

「そうかも。師匠が焚き付けたみたい。目標、宮杯だってさ。あと1ヶ月半ぐらい?……すごいね。」


……すごすぎるよ……そんなの……。
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