想いの境界線
幼い頃から、ずっと七緒を想っていた。
幼馴染みとして傍に居ながら、幼馴染み以上の気持ちを抱いていた。


誰よりも近い存在になりたいと願いながら、幼馴染みという優しい関係も手放したくなかった。
俺達だから…俺と遥斗だから、
見せてくれる七緒の笑顔。
昔は…それだけで満足だったのに…


成長と共に、どんどん綺麗になって、
ますます目が離せなくなって…
好きだと思う度に、沸き上がる欲望。
純粋に恋心を募らせていた頃と違い、
男として、女の七緒に意識する。


俺の腕の中に閉じ込めたい。
七緒の全てを手に入れたい。
俺だけのものに…


こんな気持ち…
七緒にぶつけられる筈もなくて、
持て余した想いが、
俺を苦しめる。


はっきり口に出した訳じゃないけど、
遥斗も同じように、
七緒を特別に想っているのは分かっていた。
それなのに…遥斗はいつも、へらへら笑って本心を見せない。


『俺は~陸斗を応援するよ~』


俺は自分の気持ちを捨ててまで、遥斗を応援出来ない…
遥斗を押し退けてまで、自分の気持ちを優先することも出来ない…
幼馴染みの俺たちを望む、七緒の気持ちも
無視出来ない。


『ずっとこのままぁ~は、無理でしょ?
俺なんかより、ずっとしっかりしてて、
頼れる陸がななちゃんに相応しいよ~』


遥…お前が自分を出さずに軽い奴を演じてるの…気付いてたよ。
本当は俺よりずっと、視野が広くて判断力があって…しっかりしてるのはお前の方。


『いつかさ、3人の幼馴染みの関係が崩れ
たとしても…
陸が真っ直ぐななちゃんを想ってるなら
俺は陸の弟として、ななちゃんの幼馴染
みとして…ちゃんとふたりを祝福するよ』


間延びした話し方じゃなく、
いつになく真面目にそう言った遥斗。


『他の誰かじゃ譲らない。
陸斗だからだよ』


揺るぎない遥斗の思いを…
土足で踏みにじった俺。
真っ直ぐ七緒を想い続けることが
出来なかった俺の行いが、
俺のためなら、自分の気持ちに蓋を閉めていた遥斗の背を押した。


後悔なんて、何度したか分からない。
あれだけ壊したくないと、
望んでいた幼馴染みの関係さえ、今は崩れている。


遥斗は許さないだろう…
それでもまだ、
七緒を想っていることを──
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