想いの境界線
教室に入ると、一斉に視線が向けられる。
それを無視して、遥斗は私の席へ真っ直ぐ向かい、机の上に鞄を置く。


「ななちゃん、また後でね~」


そう言って自分の席へ向かう遥斗を、待ち構えていたように、
クラス中の男子が群がる。


「よっ!遥斗‼
朝から道のど真ん中で告白されるとは、
どんだけイケメンなんだよっ‼」


「星華女子の藤崎 麻耶って、
めっちゃ可愛いって有名じゃんっ‼」


「遥斗羨まし過ぎるっ‼
俺、遥斗になりたいっ‼」


「それを悩みもせず簡単に振るとは…
勿体ないっ!」


口々に朝の出来事について、遥斗に詰め寄る男子達。
それについて、否定するでも肯定するでもなく、鞄から教科書やノートを机の中に淡々としまう遥斗。


横目でその様子を伺いながら、
私も自分の席に座る。


「おはようー‼七緒」


「おはよう、柚月」


声を掛けてくれたのは、小学生の頃から一緒の橘 柚月。柚月も私にとっては幼馴染みの一人。バレー部の柚月は背が高く、スタイルが良い。
ショートカットでボーイッシュの柚月は、
昔から頼れる仲の良い親友。


「朝から大変だったみたいね」


「遥斗がね…」


隣の席の柚月が私の顔を覗き込む。


「何かあった?」


遥斗や陸斗程、
長い時間を共有している訳じゃなくても、少しの異変を気付いてくれる。


「…うん。何か、
もやもやとイライラと、
むかむかした気持ちが混ざり合った複雑な
気分…」


「…珍しいね、
遥斗の告白現場に巻き込まれるのなんて、
昔からなのに」


何て説明したら良いのか分からず、
口をつぐむ。
柚月から視線を外し、鞄の中の物を机にしまう。
その間遥斗がこちらを見ていたことを、
私は知らない。
それに気付いた柚月が、


「私が分かるくらいなんだから、
当の遥斗は気付いてるじゃない?」


自分で説明出来ない気持ちなのに、
遥斗が分かってしまうのも、どうなんだろう…?
< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop