想いの境界線
あっという間に午前の授業が終わり、
昼休みのチャイムが鳴る。


「柚月、今日はどこで食べる?」


ランチバックに手を伸ばしながら、
柚月に訊ねる。


「天気が良いから、中庭にしようか?
私今日お弁当持って来てないから、
購買寄ってから行く。
ついでに飲み物買ってくね。
七緒はお弁当の配達がてら
ゆっくりおいで‼」


「うん、分かった」


私の返事を訊き、財布片手に教室を出ていく柚月。
ランチバックから、遥斗のお弁当を取り出し、遥斗の席へ向かう。


「遥斗」


私の声に振り向き、
満面の笑みで手を伸ばす。


「ありがとう~、ななちゃん」


いつも通り…なんだけど、
へらへら笑う遥斗に、何故か無性にムカついて、そのままふいっと顔を反らし、
無言のまま背を向け、出口に向かう。
授業中は収まっていたものが、遥斗の顔を間近で見た途端、沸々と込み上げてきた。


「ちよっ…!?ちょっと待って、ななちゃん‼」


後ろから遥斗の狼狽えた声が聞こえたけれど、構わず歩みを進める。
向かうはC組の教室。
柚月が配達と言った通り、もう一人の幼馴染み…陸斗にお弁当を届けに行くのが、
2年になってからの習慣。


丁度、廊下に居た陸斗が目に入り、声を掛ける。


「陸斗‼」


私の声に気付き、陸斗からも近付いてくれる。


「はい、お弁当」


「ありがとう、七緒」


同じ顔…同じ声、同じ言葉なのに、陸斗には穏やかな気持ちで接しられる。
朝のことが尾を引いているのは、確か…


「…七緒…何かあったのか?」


私の顔を見ながら、
心配そうに陸斗が言う。


「…え…?何も…ないけど、何で?」


陸斗は自分の眉間に指を差す。


「何となく、ここに力入ってる気がする」


「え!?皺が寄ってるってこと?」


思わず右手の指先で眉間を擦る。


「そこまでじゃなっ…!?」


陸斗の言葉を遮るように、開いていた窓からざあぁーーーーーっと強い突風が吹く。
一瞬の出来事だったが、廊下には桜の花弁が散乱している。


「凄い風だったね…」


「そうだな…
あ、七緒の髪にも花弁付いてるよ」


陸斗が指示する位置に手を伸ばしても、
上手く取れず、
見兼ねた陸斗が、花弁を取ろうと私の髪に触れようとした。
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