ほしの、おうじさま
『また同じとこぶつけちまった。よりによってこんな時に』

間違いない。

これは阿久津君の声だ。

って、「同じとこ」って、この前ケガした箇所の事だよね?

「星さん」

改めて呼び掛けられて、私はハッと我に返った。

「一体どうしたの?」

「あ、阿久津君が…」

私は焦りながらも解説した。

「掃除道具が入ってる小部屋から出ようとした時、足をぶつけちゃったみたいなの。元々傷めていた部分で…」

「え?」

それと同時に耳を澄ませていたけれど、それ以降、阿久津君の声が届く事はなかった。

「ちょっと待って。何で星さんがそんな事を把握できるの?」

「彼の声が聞こえたから…」

「いや、声って」

星野君はすこぶる困惑しているようだ。

「ここからその小部屋ってかなり離れてるよ?そんな場所にいる人の声がここまで聞こえて来る訳がないじゃない。現に、僕には何も…」
「でも、私には聞こえたのっ」

言いながら私は階段室とは反対方向に駆け出そうとした。

「ちょっと待った」

しかし星野君に腕を捕まれ、動きを阻止される。

「まさか助けに行くつもり?もし本当に彼が足をケガしていたとして、君が行っても補助するのは無理だろう?かなりの体格差なんだから」

「で、でも…」

「それに、大丈夫だよ。放っておいても」

「……え?」

「そういう事情ならば、逃げるのが遅くなっても皆仕方ないって言ってくれるだろうし」
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