ほしの、おうじさま
「……何を、言ってるの?」

今度は私の方が困惑する番だった。

「逃げ遅れても仕方がないだなんて…。そうしたら阿久津、死んじゃうじゃない」

「え?いやいや、そんな訳…」「良いから離して!」

星野君は何かを言いかけたけれど、私はそれを押さえ込むようにして叫んだ。

「私には、私にだけは阿久津君の声が聞こえるんだから!彼を見殺しにする事なんかできない!」

そして強引に星野君の手を振りほどくと、今度こそ私は駆け出した。
いくつか角を曲がり、そのまま真っ直ぐ行けば掃除用具入れ、という地点まで到達した時、廊下の先に、少し不自然な動きで歩を進めている阿久津君の姿を発見した。

「阿久津君!」

叫びながら私は彼に接近する。

「よかった。何とか歩けるんだね!」

「え?星?」

私の存在を確認した阿久津君は目を見開いて問い掛けて来た。

「何やってんだよお前。さっき放送があっただろ?さっさと逃げないと」

「う、うん。でも、阿久津君の声が聞こえたから…」

「は?」

「足を傷めたらしい事が分かって、すごく心配で、それで探しに来たの」

「はぁ?」

阿久津君は心底呆れたような声音で言葉を繋いだ。

「バッカじゃねーの?ケガくらい慣れてるから大丈夫だって言ってあんだろ?」

「なっ…」

「良いから、俺に構わずお前は先に行けよ。点呼が始まっちまうぞ」
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