ほしの、おうじさま
重役室フロアはその名もズバリ、社のお偉方が使用しているお部屋が密集していて、その方達のサポートが主な業務である秘書課も同階にある。

言い替えればそこに入っている部署は秘書課だけで、他の課の人間が用もなくフロア内をウロウロと動き回るのは禁止されている。

ただし、階段室、そしてエレベーターホールからも程近い場所に設置されている自動販売機を利用する為に、その範囲内を行き来するのは許容されているのだ。


「それで階段で移動してたら、先に自販機を見に行っていたらしい阿久津君が上から降りて来たの」

「でも彼、飲み物らしきものは手にしてなかったわよ?」

「う、うん。自分の好みの物がなかったんだって。「だからやっぱり下で買う事にした」「そうなんだ~」なんて会話を交わしてたらちょうどそこに野崎さんが来て…」
「なんか超意外」


自分としてはとっさに繰り出したにしては上手い言い訳だと思っていたのだけれど、野崎さんにはむしろ不信感を抱かせてしまったようだ。


「あの無愛想な阿久津君とあんまりおしゃべりが得意じゃない星さんが階段で鉢合わせしたからってそんな会話が生まれるなんて。お互いに無言ですれ違いそうだけど」
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