それは許される恋…ですか
きゅっと唇を噛んだままで背中を向けて洗い物をしだした。
機嫌の悪くなるようなことは言ってない…と思い、声も掛けずにやり過ごした。


翌朝に明香の声が聞こえ、耳たぶに唇が触れた気がして目覚めた。
起き上がってみると既に洗濯物がベランダに干されている。

俺も頑固だけど明香だってそうだ。
昨日は不機嫌そうにさせたままだったから今朝はそれを取り繕いに行こうと部屋を出た。


開店直後の店は想像以上に繁盛していた。
そう言えば、朝からこの店に来たのは初めてだった。

掃除をしている明香が楽しそうに客と声を交わしている。
常連らしいオッさん達に「またお越し下さい」と言いながら見送っていた。



(俺の女なのに…)


馴れ馴れしい気がして見つめていた。そんな俺のことに気づいて、明香が声を上げた。



「…篤哉っ!」


走り寄ってくる顔が驚いているけど嬉しそうだった。
振り返った常連客の視線が痛くて、恥ずかしさもあり目を逸らした。

弁当を買いに来たのかと問われ、明香の作った物が食べたい…という意味で作ったものを尋ねた。


「おにぎりと散らし寿司くらいかな」


久し振りの早朝勤務ではそんなもんなんだろうかと思い、嫌いな梅干し以外のおにぎりを買って行こうと決めた。

「待ってて」と走りだす明香は可愛かった。
どんなに常連客と仲良くしていても、やはり彼女の一番は俺だな…と自負した。


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