それは許される恋…ですか
「……最…低…」


声を出したら涙が溢れ始めた。
唇を噛んだまま事務所の外へ飛び出した。


店の外は雪が舞い降り、路面には薄い粉雪の粒が固まってる。
朝は走って通う道を一目散に部屋へと向かう。

その間も頭の中ではさっきのキスが思い浮かび、どうしようもない程気持ちが乱されていく。

はぁはぁ…と息を弾ませながら部屋の鍵を開けて中に入った。
狭い玄関スペースで力尽き、へなへな…としゃがみ込む。


白い息を吐き出す唇が汚された様な気がして、嫌で堪らなくて立ち上がった。
口を濯いで吐き出した水が、蛇口から流れ出ている水に混ざって消える。


コップ一杯分の水で濯ぎを繰り返した後で、ようやくホッとして水を止めた。


たかがキスをされただけなのにショックを感じていた。
白瀬さんの大人気ない行動にも腹が立ち、同時に隙を見せてしまった自分にも憤った。



(こんなことがあったって、厚哉に知られたくないよ…)


この最近何もされてなかったからなんて言い訳にもならない。
不覚にもキスに溺れそうになり、長く彼を受け入れてしまった。


思い出すとあの感覚に引き戻されそうになるのが嫌で、すぐに部屋の掃除をし始めた。

天気は悪いのにベッドカバーもシーツも外して洗おうと決めた。
洗う前に厚哉の匂いを確かめ、安心してから手を離した。


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