それは許される恋…ですか
驚いて振り返ってみると、見覚えのあるコートを着た人が後ろから傘を差し向けてる。

その人は私のことを見つけ、いつからこの傘を差してたんだろうか。

足音も聞こえない程ボンヤリとして歩く私の姿を眺めながら一体何を考えていたんだろう。




「……厚哉」


名前を呼ぶと優しい顔をして笑った。
初めて出会った日のように、胸が高鳴るのを聞いた。


「やっと気づいた」


持つよ…とエコバッグを預かった。
その腕に掴まり、ぎゅっと彼のことを確認する。



「厚哉……」


温もりを確かめながら気づいた。
私が彼と一緒に住んでる理由は、この腕を必要としているからだ。


この人が私を止めてくれたから今がある。
あの時、何もせずに見送られたら今の私はここには居ない。

厚哉との生活もせずに他の誰かと暮らして、全く違う人生を歩んでた筈だ。


その人は彼ほど私を愛してくれただろうか。

生きていくということは働くことだと、身を持って実感させてくれただろうか。

頼りきったら駄目だけど、協力はし合おうと教えてくれただろうかーーー。


思い返せば厚哉の言ってきたことややってきたことは、ずっと間違ってないのかもしれない。

現実の厳しさも知らずに家を飛び出した私には、厚哉とのビジョンも築けてなかった。

甘い時間を過ごせるもんだとばかり考えていた。だけど、それは夢物語にしか過ぎないと教えられた。


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