それは許される恋…ですか
こんなふうに勝手な思いつきで言い始める。
殆どの料理は調味を済まされた状態でパック詰めされてくるのに、わざわざ手の込んだ物を作ろうとする。

初心者の頃は彼の変更指示が恐ろしくて、毎日今日は何がどうなるのか…とビクビクしながら働いてた。


「挽き肉はあるからいいな。俺が玉ねぎを刻むから桃は肉を揉み込め」

「…はーい」


桃山を略して桃と呼ぶようになったのは勤めだしてからだ。
毎日「桃山!」と怒るのが面倒くさくなったとかで、とうとう略されてしまった。


「間延びした返事するな!バカみたいに聞こえる」

「はい!すみません!!」


くそ…と思いながらも言い換えると、ニヤッと小さく笑われた。
その顔が憎いくらいにイケメンなんだ。
普段怒ってる時は鬼以外の何者にも見えないけど、それでも普通よりかは多分イケメン。


(でも、靡かないけどね)


私には子犬のように可愛い厚哉がいる。
だから上司がどんなにいい男でも惹かれない。


心に決めて黙々と肉を揉み続ける。
暫く揉み込んでいると油が滲んできて、全体がねっとりと光りだした。


「玉ねぎ粗熱取れたから入れるぞ」


あっという間に微塵に切った玉ねぎを炒めていた人がコンロ側から叫ぶ。
サッと避けたつもりでいたけど、どうも距離が近かったらしい。


「アツッ!」


飛んできた玉ねぎの欠片が頬を掠めた。
私の声に驚き、白瀬さんの動きが止まる。


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