それは許される恋…ですか
「あのドアの向こうが事務所らしいの。そこで話をして欲しいって言われた」


私の言葉に頷き、「行っておいで」と涼しい顔をする厚哉。


「…ねぇ」


今ここで働きたくないと言えばどうなるか。
それは想像せずともわかる気がする。


「い…行ってくるね」


無理に笑って踵を返した。
背中を向ける私のことを厚哉がどんな目で見ているかも気にしないように振舞った。



コンコン!


お腹の前でグーを作り、アルミのドアを叩く。
背中側には交通量の多い道路があり、奥からの声は届き難い。


(何も聞こえないけど、入っていいのかな……)


シルバーに輝く円柱形のノブに手をかけ、ぐっと回して引っ張り開けた。

外が明るかったせいか、中は一瞬暗転のように暗く見える。
ぼぅっとしたまま倉庫っぽい部屋の中を確かめることもせずに立ち止まっていると、何処からか男性の声がした。



「あんたは?」


声を掛けられて前を見直すと、黒っぽい肘付きの回転椅子に座った人が机に付いている。
服装からして店長さんだ…と思うと急に緊張が走り、オズオズ…と小声で答えた。


「ぱ…パート募集の張り紙を見て来ました。お店に行ったらこちらへ回りなさいと言われましたので」


ガタガタ…と震える膝に力を入れ、やっとの思いで立っている状態だった。
倒れ込みそうな程震える足元を気にして、何とか必死で踏ん張る。


「そう。どうぞ」


男性は「お入り下さい」と促す。


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