それは許される恋…ですか
(大丈夫よね……何もされたりしないよね……)


何の面接に来たのかと言いたくなるくらいに緊張して足を運ぶ。
真っ暗だと思えた室内には暗そうな白色灯が点り、慣れれば普通の明るさだと気づく。


「どうぞ、そちらの椅子に掛けて下さい」


「あんたは?」とぞんざいな聞き方をした人は、一応の丁寧語を使って勧める。


(先ずは一礼。そして背筋を伸ばして座る……)


これまでしてきた入社面接と同じような経緯を辿り、ちょこんと男性の向かい側に用意された小さな折りたたみ式のアルミ椅子に腰掛けた。


「履歴書は?書いてる?」


やっぱり丁寧語が吹き飛んだ相手にソロソロと見せたくもない履歴書を手渡す。


「桃山明香(ももやま あすか)さん…。まるで歴史の教科書に出てきそうな名前だなぁ」


履歴書の一番初めに書かれてある氏名を見て笑われた。
何処に行っても必ずと言っていい程、同じ反応をされる。
桃山時代と飛鳥時代、二つの時代が連想されると笑われるんだ。


ここでもか…と思いながらも、それ以外のところはあまりチェックもしない人の動作を見つめる。


「予め確認しておきたいんだけど、調理経験はありますか?」


「は…い。え、え…と、す、少しだけなら……」


緊張し過ぎてダメだ。
声もハンパなく震えてるし、視線も完全に泳いでる。


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