それは許される恋…ですか
父からお見合いの話を出された時、自分は会社を存続させる為の道具としてしか必要にされてないんだと思った。
例えばそれが私の幸せを願ってだとしても、辛い現実としてしか受け取れなかった……。

それと同じように、厚哉にとっても私はただのその場繋ぎな道具でしかないんじゃないのか。
如何にも要るように見せて、実はもう飽きられてるんじゃないのか。

このまま触れられもせず、必要ともされずにいて、そのうちに放り出されてしまうんじゃないの。
もしも、そうなったら私、どうすればいい……?



保育園のバスを見送った白瀬さんが店に戻ってくる。
私がぼうっとしてるのを見つけ、「桃」と名前を呼び付けた。


「はい…?」


答えると同時に何かが手元に落ちた。
接客カウンターのビニールカバーの上に、水玉のようなものが貼り付いてる。


(これ…何…?)


下を向いた途端、ポタ…とまた一つ貼り付く。
それが涙だとわかると、ぼろぼろ…と零れだした。



「明香さん?」


カウンターの後ろで盛り付けをしていたチズちゃんが声をかける。
自分でも感情のコントロールができなくて、「大丈夫」以外の言葉が言えなくなった。


「菅さん、ちょっとカウンター頼む。桃、お前はちょっと来い」


腕を引っ張られて外へ出た。店の外から事務所の中に入れられ、「何事だ」と問われる。



「何でもないです…」


涙を浮かべたままで答えたところで、信憑性はまるで無い。


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