それは許される恋…ですか
実家からも社会からも必要とされない自分。
厚哉にも触れられもずにいる自分が、また裏切られたと感じた。
白瀬さんはそんな私の気持ちも知らず、また言葉を告げた。


『桃が好きだ…。ずっと見てきた…』


そんな言葉を言わないで欲しかった。
私には厚哉がいるのに、そんなことを聞かさないで欲しい。



「厚哉……」


私が肩を抱いて欲しいのは彼だ。
好きだと言って欲しいのも厚哉だけ。なのに。



「どうして……」


止まってた涙がまた溢れ落ちる。
膝が崩れ落ちたのを機に、その場に座り込んで暫く泣いた。



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一時したら涙も出なくなった。
ずずっと鼻水をかみ、厨房には裏から入る。

厨房は繁盛の真っ最中だった。
菅さんが1人で接客をし、チズちゃんは後ろの作業台でご飯をついだり海苔弁や鮭弁を作る。
他のパートさん達もそれぞれ自分の持ち場を担当している。その中でもアクティブに動き回る白瀬さんの姿を目で追った。


いつも通りの黒いバンダナとエプロン姿。足元は不似合いな長靴だけど、それでもやっぱり様になってる。

この人が家で寛ぐ時はどんな格好をするんだろうか。
厚哉はいつも大抵スウェットだけど、この人は私生活も少し違うような気がする。


「大丈夫?」


洗い場担当のパートさんから声をかけられ、「はい…」とボンヤリしたまま返事をした。


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