それは許される恋…ですか
「でも遠いよ?歩くと10分もかかるし」

「走ってくよ」

「待って。私も行く!」


追いすがるように付いて行こうとしたら、ダメだと退けられた。


「暗いし危ない。寒いから俺一人だけで十分」


言い渡して直ぐに靴を履き直す。
スーツの上に着たコートのボタンも留めずに出て行こうとする。


「厚哉!」


自分を連れて行かないのならせめて…と思い、仕事に巻いていったマフラーを首に渡した。


「寒いから気をつけて。帰ってくるまでにあったかい汁物だけでも作っとくから」


本当は一緒に行きたい。
マフラーじゃなく、自分の体を彼の腕に巻き付けて歩きたい。


「期待しとく」


厚哉の声が遠い感じで聞こえた。
帰って来てね…と願いながら、「行ってらっしゃい」と手を振った。


軽いキスもなく閉じたドアの前で不安が波のように押し寄せる。
立ち尽くしていたらそれに飲み込まれそうな気がして、踵を返してキッチンへと向かった。

タンタンタンタン…と玉ねぎや人参、ピーマンといった野菜を刻む。
こんなにスムーズに切れるようになれたのも、昼間私を好きだと言った人の指導があったからだ。


あの人のシゴキに耐えられたのは何故か。
それは一重に厚哉に美味しいと言われる物を作り出せるようになりたいと願ったから。

厚哉が私を引き受けてくれる。だったらその代償に、せめて美味しいと喜ばれる物を作ってあげよう。


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