それは許される恋…ですか
「母さん、挨拶はもういいから」


後ろからやって来た白瀬さんに救われる。ホッとしながら息を吐き、彼の方へ目線を向けた。
参ったな…という顔をしてる。いつもの鬼とは違う感じで柔らかいなと思う。


「時間がないから始めるぞ。…桃」


声をかけられ、ピクンと背を伸ばした。


「何かとやりにくいと思うけど頼む。今日は俺も着くし、お前のペースで進めていいから」


全面的に任せる様な言葉を放ち、母親には「指示に従えよ」と言い渡した。


「じゃ…じゃあですね……」


緊張しながら手順を説明する。
今日はいつも店長がすることを自分がするから、お寿司とおにぎりを作って下さい…と頼んだ。


「お寿司って何?握り寿司?」

「アホか。んなモン弁当屋が作るかよ」


悪態を吐きながら漫才みたいに言い合ってる。
まるで自分と父親みたいに思えて、クッ…と笑いを噛みしめた。


重い一斗缶を傾けてフライヤーに油を注ぐ。
昨日のようなことがないことを願いながら着火点に火をつけた。

ボッ!と音を立て、青いガスの炎が回っていく。
爆発音じゃなくて良かった…と思いながら、同じようにもう一つにも火をつけた。


(さてと、次は…)


フライヤーの足元から立つと、私を窺うように見てる人と目が合う。
緊張してるように見えていたのか、フッと優しい目をして微笑んでくれた。


< 88 / 146 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop